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お前の番だ! 359 [お前の番だ! 12 創作]

「他の理事さん達の意向は、如何なところにあるのでしょうかね?」
 是路総士は話頭を少し曲げるのでありました。
「会長の意見に雷同、若しくは不承々々ながらも従おうとする連中が半ば強、威治じゃ絶対いかんという連中が半ば弱、と云ったところでしょうかね。私の知りあいなんぞは、威治が後継者になるのなら理事を辞める、と云って憤慨していました。威治じゃとても興堂派の所帯を保ってはいけないし、道分先生の武道が廃れてしまうと云う考えのようですな」
「あの道分さんの後を継ぐ人は、誰であろうとそれは大変でしょうね」
「確かにその通りではありますなあ」
 鳥枝範士はそう云って頷くのでありました。それだけ武道家としても、魅力的な人柄と云う点に於いても、興堂範士は傑出していたと云う事でありましょう。
「そう云うわけなら、花司馬君も立場上色々思い煩う事が多いでしょうな」
「威治を後継とする意見の方が、徐々に勢いは増しているようですからね。それに威治にすれば花司馬は目の上の瘤、と云った存在でしょうから」
「この前ウチにやって来たのは、稽古よりも、屹度その辺を相談したかったのでしょうね。まあ、云いそびれて帰って仕舞いましたが、考えたら気の毒をしましたかな」
 是路総士は縦皺を作った眉根を上げて申しわけなさそうな表情をするのでありました。
「ワシ等は結局見守るしかありません。会長と威治と半数以上の理事が、花司馬本人と花司馬を支持ずる理事連中にあれこれ圧力をかけて、自分等の了見を押し通そうとしている、と云った図式のようですから、花司馬としてはげんなりと云うところでしょうか」
「花司馬君本人は、自分が中心になって組織を纏めると云う気はないのでしょうかね?」
「推されればそうするでしょうが、自ら進んでそう云う意志は表さないでしょう。彼奴はどちらかと云うとトップに立って組織を引っ張ると云うタイプではなく、番頭格の役回りの方が性にあっているようですからなあ。剛腕、と云うイメージもないですから」
「威治君がトップに立ったとしても、花司馬君なら屹度自分の分限や役回りをちゃんと弁えて、それなりに興堂派のために尽力するでしょうがねえ。あの人は篤実な人だから」
「しかし先に云いましたように、威治にとって花司馬は目の上の瘤ですから、威治の方が花司馬の心胆や態度以前の、その存在自体を、只管疎んで止まないでしょうから」
 是路総士と鳥枝範士の話しを聞きながら、花司馬筆頭教士は全く以って立つ瀬のない位置に立たされているのだと万太郎は同情するのでありました。しかも興堂範士の不慮の死と云う、花司馬筆頭教士が自ら招いたわけではない事件に依って。
 万太郎の横に座っているあゆみも、遣る瀬ない顔で話しを聞いているのでありました。あゆみの場合、威治教士とは後味の良くない因縁もありましたから、花司馬筆頭教士の今度の回りあわせへの同情は、万太郎よりも深いかも知れないと云うものでありましょう。
「私は一応、威治君の後見を、まあ愛想程度の気持ちからかも知れませんが、あの会長さんに頼まれたと云う経緯がありますから、一度神保町に出向いてみましょうかな」
「いや、寧ろ有らぬ疑念を持たれても叶いませんから、止しておいた方が無難でしょう」
 鳥枝範士は是路総士の顔の前に掌を掲げて見せるのでありました。
(続)
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