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お前の番だ! 358 [お前の番だ! 12 創作]

 鳥枝範士はそこで顔を起こすのでありました。「古い理事はこの際威治ではなく、花司馬を中心にしてやっていきたいと云う意向のようですが、会長が、どうしても血筋を大事にすべきだと云う考えで、威治が後を継ぐのが正統だと強力に推しているようです」
「理事会の意志は、原則多数決で決まるのでしょう?」
「そうなのですが、この会長がなかなか強硬に威治後継論を取り下げないようで」
「会長さんは、確か保守の元国会議員でしたね?」
「そうです。今は慈善団体やら、色んな非営利法人なんかの会長や顧問やらの肩書ですかな。一説によると自分の地元の県政に深く絡んでいて、保守系県議の陰のボスのような存在らしくて、例えば公共工事等の利権を取り仕切るとか、人事にも口出しして県政を裏で牛耳ろうと云う野心があるとか。国会議員の頃は、寝業師、なんと云う渾名がありましたか。金絡みで色んな疑惑が取り沙汰されましたが、尻尾は竟に掴ませなかったようです」
 その会長が、何とも胡散臭い曲者である事を鳥枝範士は強調したいようでありました。
「接した感じは特にそんな風でもないですがね。まあ、どうしたものか目が何時も笑っていないから、心根の知れない人だと云う印象はありましたが」
「道分先生の中学校の上級生に当たる人で、国会議員時代に向こうから接近して来て、まあ、色々興堂派に奉仕してくれたので会長職に二年前から就いたと云う人です」
「道分さんは悪人善人とか癖の有るなしを問題にしないで、近づいてくる者は拒まずと云った姿勢でしたからねえ。それが道分さんの人間の大きさでもありましたし。いやまあ、その会長が、別に悪人とか癖の有る人とか云うつもりは毛頭ないのですが」
 是路総士は顔の前でゆっくり掌を横にふって見せるのでありました。
「総士先生は以前に興堂派の顧問をされていましたから、あの会長の人となりなんぞを良くご存じなのではないですか?」
「私が顧問をしていたのはもう随分昔の事です。私が顧問として何時までも関わっていると、折角の独立流派である興堂派の発展の障害になるだろうと云うので、退かさせていただいたのですが、その頃はあの会長さんは理事でも顧問でもありませんでしたよ。未だ道分さんとあの会長さんの交流が始まる前、と云う時期になるのでしょうね」
 ここで是路総士は言葉を切って、それからまた話しを始めるでありました。「あの会長さんとはこの前の葬儀の時もですが、向こうの演武会だとか、正月や折々のパーティーとかで偶にお会いする程度でしたか。その折は、愛想程度の言葉は交わしてはおりました」
「あんまり親しく交わったと云うのではないと云う事ですか?」
「道分さんが私を、あにさん、と云って終始立てるのを、あの人はあんまり好ましく思っていなかったような風でしたな。そう云う態度だから興堂派が何時まで経っても総本部の風下に立ち続ける事になる、という具合に思われていたのかも知れません。まあ、それでも道分さんの私に対する律義な態度は、終生何も変わらなかったのですがね」
「総士先生と道分先生の間柄は、あの会長と道分先生のそれよりも遥かに濃くて長いでしょうからね。それに何かの利で以って結びついているのではなくて、総士先生と道分先生は実の兄弟のようでもあり、互いを高めあう宿縁のライバルのようでもありましたから」
(続)
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