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お前の番だ! 356 [お前の番だ! 12 創作]

 夕食後に万太郎は師範控えの間に戻った是路総士に呼ばれるのでありました。万太郎はコーヒーを来間に淹れて貰って、それを持って控えの間の方に向かうのでありました。
「押忍。失礼いたします」
 万太郎は座礼して膝行で座敷の中に入るのでありました。
「折野、今日の花司馬君の様子をどう思ったか?」
 是路総士はコーヒーを一口飲んで訊くのでありました。
「押忍。何となく、お元気がないような感じでした」
「ひょっとしたら目的は稽古じゃなくて、何か大事な相談があったのかも知れんな」
「そうですね。そのような気配を僕も感じました」
 万太郎は一つ頷くのでありました。
「しかし特段の具体的な話しは、何もしてはいかなかったなあ」
「結構重い相談事なので、気後れして結局云いそびれて仕舞われたのかも知れません」
「興堂派に関して、お前の方で何か噂のような事でも聞いてはないか?」
 是路総士はまたコーヒーを一口飲むのでありました。
「いや、特には」
「向こうの門弟の堂下君とかから、お前の方に何か云ってきたりもしないか?」
「いやあ、何も。道分先生の葬儀以来、逢っていませんから」
「ああそうか」
 是路総士は、今度は立て続けに二口コーヒーを飲むのでありました。
「何か小難しい問題でも起こっているのでしょうか?」
「さあ、どうだろうな」
「鳥枝先生なら向こうの財団理事の方にお知りあいがいらっしゃるようですから、何かご存知なのではないでしょうか?」
「そうだな。今度訊いてみる事にしよう。今日の花司馬君の様子を見ていたら、何事かが起こっているような気がして、急に心配になってきた」
「考えられる可能性として、内紛、のような事態が起こっているのでしょうか?」
 そう云った後に、そんな立ち入った詮索は不躾かと万太郎は思うのでありました。しかし是路総士はこの万太郎の不謹慎な言辞を叱る事もなく、寧ろ何か考えるところがあるかのように、しかつめ顔で一度頷づいて見せるのでありました。
「まあ、そんなような事が何もないのなら、別に良いのだが」
「総士先生は若先生の後見役と云う事ですから、何か問題が持ち上がったら、真っ先に相談があって然るべきでしょうけどね。一応建前の上では」
「まあ、儀礼的にしろそう云うお役目を向うの財団の会長からおおせつかってはいるが、実際は財団の理事会の意見がそれよりは優先、と云う事になろうよ」
 威治教士としても是路総士が後見役である事を、そんなに喜んではいないでありましょう。自分よりも遥かに格上で、しかも人間のタイプとして苦手にしている是路総士にあれこれ相談を持ちかけるのは、出来れば平に遠慮しておきたいところでありましょうから。
(続)
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