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お前の番だ! 351 [お前の番だ! 12 創作]

「実は竟この間の事なんですけど、・・・」
 万太郎は他ならぬ良平になら話しても大丈夫であろうと独断して、先にあったあゆみと威治教士の縁談話しの件をあらまし語って聞かせるのでありました。良平は万太郎の話しをさもありなん、と云った表情で黙って聞いているのでありました。
「よくもまあ、そんな話しを抜けぬけと持って来れたものだよなあ」
 良平は聞き終わってから如何にも呆れ果てたような声を出すのでありました。これは勿論、直接その縁談話しを切り出した興堂範士を詰っているのではなく、それを自分の父親に依頼した威治教士の抜けぬけしさとあざとさを論っているのでありました。
「あゆみさんに好かれていないのは、本人も気づいていても良い筈ですしね」
 万太郎も応じるのでありました。
「その辺の鈍感さと云うのかしれっとしたところと云うのか、それも勿論だが、とかく若先生には良からぬ男女関係の噂がつき纏っているんだから、それを当然あゆみさんも知っているだろう事を承知で、平然と結婚を申しこむ辺り、図々しいにも程がある」
 良平は吐き捨てるような云い草をするのでありました。「道分先生の威さえ借りれば、何でも思う事が成就するとでも考えているのかねえ」
「まあ持って行く先が、常勝流の総帥であり道分先生の兄弟子たる総士先生なのですから、威を借りる、というわけにはいかないくらいは判るでしょうが」
「それはそうだ。しかし道分先生の高徳の裏に己の薄徳を隠そうとするちびた魂胆には違いないだろう。その辺が如何にもあざといと云うんだよ、俺は」
「総士先生が病院から退院してこられて、未だ稽古にお出になられなかった時、若先生は頻繁に総本部にいらっしゃって、一般門下生稽古に参加されていましたが、あれはあゆみ先生の気を引こうと懸命だったんですねえ、今にして思えば」
 来間が話しに入って来るのでありました。今頃そんな事に気づいたのかと、万太郎は来間の迂闊さ加減に少し驚くのでありました。
「それもそうだし、あゆみさんとの結婚話しが纏まりでもすれば、ひょっとしたら将来、自分が常勝流の総帥になるかも知れないと勝手に臆断して、その時のために総本部の門下生達に、自分の偉大さを誇示しておこうと云う風な意図もあっただろうし」
 万太郎は車窓の外に目を向けた儘で云うのでありました。
「ああ成程、そうですね。しかしそれは成就しませんでしたよね。結局門下生達に総好かんを食って、有耶無耶のうちに竟にお出でにならなくなって仕舞いましたから」
「そうだな」
 万太郎は来間の方に目を遣って目尻に笑いを湛えるのでありました。
「ま、やる事為す事、全部が幼稚と云うのか浅はかと云うのか、最後には皆に呆れられて、始末もつかなくなって遁ずらするのは、あの人の何時もの結末だな」
 良平が嘲弄するような云い草をするのでありました。
「それも、どういう了見か大威張りで遁ずらしますから、こっちはまごつくばかりです」
 万太郎がそう云うと、良平は万太郎の顔を覗きこむのでありました。
(続)
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