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お前の番だ! 349 [お前の番だ! 12 創作]

「こう云っては何ですが、確かに若先生には道分先生程の人望はなさそうですね」
 良平が何となく、もっと目方の憤懣の言葉を誘引しようとしてか、焚きつけるような相槌を打つのでありました。良平の魂胆としては目方に更に物語らせて、興堂派のこれからの推移の一端を探ろうとしているような、そんな節が見受けられるのでありました。
「今次の事だって、若先生は最初ハワイに行くのを尻ごみしていたんだよ。それを財団の理事や長男さんや花司馬先生に諌められて、ようやく重い腰を上げたんだから」
「自分の父親が亡くなったと云うのに、ですか?」
「ハワイには長男さんだけが行けば、それで足るだろうと云う了見だったらしい」
「そりゃあ、事務的にはそれでも大丈夫でしょうが、しかしそれじゃあ、・・・」
「そうだろう、普通はそう考えるだろう?」
 目方は良平の顔を指差すのでありましたが、これは良平の今の言葉に我が意を得たり、と云う気持ちを強調するための修飾的は仕草でありました。「しかし若先生の心根は違うんだなこれが。兎に角自分の都合が最優先事項だから、そう云った不慮の七面倒臭い仕事や、意ならぬ拘束を、ほんの少しでも押しつけられるのが何よりも嫌なんだろうな」
「しかし、事が事ですしねえ。・・・」
「自分の親が亡くなったんだぜ。取るものも取り敢えずその父親の亡骸の下に駆けつけようとするのが、普通の心理だよな。でも、若先生はそうではないんだな」
「まるで子供のようですね、そう云う心性は」
「子供だって、先ずはどうする事が一番大切かは、簡単に判るってものだ」
「ま、そうですかね」
 良平は呆れたような表情をして見せるのでありました。
「そりゃあ観光旅行とか向こうの支部に呼ばれて門弟達に持て囃されるとか、下へも置かない好待遇が待っているなら、何を差し置いてもおいそれと行くだろうよ。しかし自分の意に染まない小難しい用件となると、どんな重大な事でもぐずぐずと行き渋るわけだ」
「でも結局、行かないわけにはいかないでしょう。武道関連の事態でもありますから」
「こっちで葬儀の手配とか関係筋への連絡とかを自分がやるから、兄貴だけで行ってくれ、なんて一見尤もらしい云いわけを並べたようだけど、そう云う事は俺がやるから何よりも一番近しい身内として取るべき態度を取れ、なんて花司馬先生に怒られたようだ」
 目方はそこで苦ったような笑いを作るのでありました。「理事連中にも、息子としての務めを果たせ、なんて諄々と説得されて、それじゃあ仕方がないと云った感じで長男さんについて行ったんだ。どうせこっちに残っても面倒な仕事は全部花司馬先生に押しつけるだけだったろうし、向こうでも長男さんに総て任せきりで役には立たなかっただろうけどな」
 指導者であると云うのに、ここまで門下生に忌まれる先生も珍しかろうと万太郎は思うのでありました。また、不謹慎と謗られるのも厭わずに、そう云う事情を道場の外の者に対して披歴し愚痴を零す目方も、我慢出来ないくらい情けなく思ったのでありましょう。
「この先、興堂派は大丈夫なんでしょうかね?」
 良平が憂え顔を目方に向けるのでありました。
(続)
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