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お前の番だ! 340 [お前の番だ! 12 創作]

 寄敷範士の構えは堂々たる正眼でありました。万太郎は下段に切っ先を落とすのでありましたが、これは防御の構えで、相手の先の攻撃に対処するためのものであります。
 この時点で、万太郎は寄敷範士に圧倒されたと云えるでありましょう。その万太郎の気を読んだのか、寄敷範士が万太郎に声をかけるのでありました。
「折野、乱稽古だ、遠慮は何も要らんぞ」
 ここで正眼なり上段なりに構えを変えると寄敷範士の思う壺でありましょうから、万太郎は無表情の儘下段の構えを崩さないのでありました。それこそ組形稽古ではなく乱稽古なのでありますから、寄敷範士の誘導に素直に従う必要はないというものであります。
 万太郎が誘いに乗らないと判断した寄敷範士は、正眼の構えの儘、自分から間合いをつめに出て来るのでありました。万太郎は気圧されないように木刀の切っ先に気魂を集めて、微動もしないで寄敷範士の目を半眼に捉えながら待つのでありました。
 こうなれば気魂と気魂の勝負であります。先に焦れて見切り発車のように万太郎の方から攻撃を仕かけて仕舞えば、それが即負けの動きとなるでありましょう。
 万太郎がまたも誘いに乗らないと判断した寄敷範士は歩を止めて、剣先を落として万太郎と同じ下段の構えを取るや、半足にじり寄って木刀の横目をあわせるのでありました。どうやら万太郎の木刀の自由を奪おうと、上から押さえにくる心算のようであります。
 それでも万太郎は木刀を全く動かさないのでありました。予想した通り寄敷範士はやや木刀を寝かせるように被せて、万太郎の木刀の峰に自分の木刀の刃紋の辺りをやんわりと載せて、半身を取ってその儘なおも万太郎ににじり寄ろうとするのでありました。
 万太郎の動かない木刀の峰の上を、寄敷範士の木刀がじわじわと滑りつつ迫上がるのでありました。寄敷範士の木刀の先端が万太郎の木刀の鍔止めに触ろうとする一瞬、万太郎は手を返しながら寄敷範士の木刀を右上方に巻き上げるのでありました。
 寄敷範士は素早くその巻き上げの線上から木刀を外すと、万太郎の首に向かって突きを繰り出すのでありました。万太郎は瞬時に一歩退いてその突きを避けると巻き上げた木刀で袈裟に寄敷範士を切り下げようとするのでありました。
 寄敷範士は右円転返しの手つきで木刀を自分の左横側に素早く逆立させて、万太郎の斬撃を受け止めるのでありました。木刀の搗ちあう乾いた音が道場に響くのでありました。
 今度は寄敷範士が右に回りこんで、円転返しに万太郎に斬りつけるのでありました。万太郎はその斬線に同調するように際どく体を沈めながら、ごく小さな動きで手を返して切っ先を寄敷範士の木刀の鍔下に送るのでありました。
 万太郎の頭上一寸で寄敷範士の木刀の物打ちがピタリと止まるのでありました。剣風が草原を襲う野分のように万太郎の髪の毛を騒がすのでありました。
「それまで!」
 鳥枝範士が片方の掌を突き出しながら叫ぶのでありました。「寄敷さんの一本!」
「いや、これは私の負けだな」
 寄敷範士は万太郎の頭上に木刀を据えた儘でそう云うのでありました。「鳥枝さんの方からは見えなかったかもしれないが、折野の小手打ちが紙一重の差で先に入っている」
(続)
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