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お前の番だ! 336 [お前の番だ! 12 創作]

「その間、神保町の興堂派道場は稽古が休止されるのでしょうか?」
 万太郎が訊くのでありました。
「いや、勿論門下生には告知はするだろうが、ご遺体が戻るまでは通常の稽古を続けるようだ。若し自分に何かあったとしても稽古は一日たりとも休むなとは、前から道分先生が厳しく云われていた訓戒で、それに則って稽古は休まないと云う事らしいな」
 鳥枝範士が是路総士に代わって万太郎に応えるのでありました。「まあしかし、流石に葬儀の時には休まざるを得ないだろうが」
「威治君が抜けても一先ず指導の手は足りるだろうが、どうしても応援が必要な場合には折野、お前が手伝いに行け。お前は向こうの門下生達とも馴染みがあるだろうからな」
 寄敷範士がそうつけ足すのでありました。
「押忍。承りました」
 万太郎は畏まった顔で座礼するのでありました。
「道分先生の長男だけが行って、次男の威治はこちらで留守番するなんぞと、始めの内、本人は行くのを躊躇っていたそうだが、道分先生が武道関連でハワイに行ったのだからとか説得されて、渋々同行する事にしたらしい。長男は武道とは無関係な人間だからな」
 鳥枝範士がこの間の経緯を少し説明するのでありました。
「ご長男さんは何の仕事をされているのですか?」
「中学校の英語の教師だ」
「若先生は、どうして行くのを渋られたのでしょうかね?」
「面倒臭いとか、大方そんな理由からだろうよ。観光旅行とは違うからな」
「自分の親が不慮の病で、しかも外国で急に亡くなったと云うのに、ですか?」
「あいつは例え地球が潰れようが、何よりも自分の都合が優先のヤツだからな」
 鳥枝範士は鼻を鳴らして見せるのでありました。
「興堂派道場が休まないのなら、勿論総本部も何時も通りに稽古をするのですね?」
 あゆみが是路総士に向かって質問するのでありました。
「それは当然だ。明日も予定通り稽古を実施する」
「総士先生か、または鳥枝先生か寄敷先生が、朝になったら神保町の方に赴いて、向こうの道場の様子を見てくる、とかはされないのですか?」
 これは万太郎の質問でありました。
「向こうの道場が多少心配ではあるが、花司馬君の事だからちゃんと疎漏なく切り盛りするだろう。万事は、道分さんのご遺体が息子達に護られて戻って来てからだな」
 是路総士のその言葉が、何となくこの急な深夜の寄あいの締め括りの言葉となるのでありました。鳥枝範士と寄敷範士は、これから家に帰ってまた朝に出直してくると云うのも億劫だからと云うので、師範控えの間に布団を並べて泊まるのでありました。
 両範士とも恐らくそうなるだろうと踏んでいたようで、明日着る稽古着は持参して来ているのでありました。久方ぶりの二人揃っての総本部での宿泊となるのでありましたが、場合が場合だけに浮かれて酒盛りをすると云うわけには勿論いかないのでありましたが。
(続)
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