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お前の番だ! 332 [お前の番だ! 12 創作]

 是路総士は万太郎の方を向いて無表情に頷くのでありました。万太郎は急ぎ立って居間を後にして内弟子部屋へ来間を呼びに行くのでありました。
 来間は居間に到着すると座卓を囲んで座る是路総士とあゆみと万太郎から離れて、障子戸の傍に遠慮がちに単座するのでありました。この間の事情のあらましは、廊下を急ぎ足に進む内に万太郎から知らされているのでありました。
「いやまあ、驚いた」
 是路総士がそう言葉を発するのでありました。「と云って、日本に居る我々には、次の報を苛々しながら待っているより仕様がないのだが」
 確かに何やらの動きをするとしても、花司馬筆頭教士からの第二報を待ってからでないと動き様がないのであります。花司馬筆頭教士は自宅から神保町の道場に移動している最中でありましょうから、連絡は道場に到着後となるでありましょう。
「総士先生は神保町の方に行かれなくともよろしいのですか?」
 万太郎が腕組みする是路総士に訊くのでありました。
「私もすぐに行こうかと云ったら、未だ電車も動いていないし、それには及ばないと云う返事だった。もし必要なら知らせるとの事だ。まあ、私が行っても一緒に心配するだけしかやる事はないし、私が行けば向こうも色々要らぬ気を遣わなければならんだろうし」
「鳥枝先生と寄敷先生には、すぐに連絡を入れますか?」
 万太郎が訊くと是路総士は暫し考える風の顔をするのでありました。
「こんな夜中で恐縮だが、事が事だけに、一応知らせておいた方がよかろうかなあ」
「僕の方で電話を致しましょうか?」
「いや。私が直接、しよう」
 是路総士は座を立って電話機の前に行くのでありました。
「来間、済まんが総士先生のお茶を淹れてくれないか」
 是路総士が鳥枝、寄敷両範士に電話をしている間に、万太郎は来間にそう命じるのでありました。この後は取り敢えず花司馬筆頭教士の電話待ちとなるでありましょうから、居間で待機する時間は少し長引くと思われるからであります。
「押忍。承りました」
 来間は是路総士の電話の邪魔にならないように小声でそう返事してから、何となく気忙し気に食堂の方に立つのでありました。
「花司馬先生はどうやって神保町の道場の方に行かれるのでしょうかね?」
 万太郎はあゆみに言葉を向けるのでありました。
「花司馬先生は自分の車で向かうんじゃないの」
「ああそうか。花司馬先生は車を持っていらっしゃるんでしたね」
 威治教士の方は道場で待機しないのだろうかと、万太郎は話しの接ぎ穂でこの後に訊こうとしたのでありましたが、何となくこんなしめやかな折に、あゆみに敢えて威治教士の名前を聞かせるのもがさつであろうと思って、それは口の外には出さないのでありました。
「花司馬先生のお宅は確か、池袋の方でしたよね?」
(続)
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