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お前の番だ! 314 [お前の番だ! 11 創作]

「だったら、それで良いじゃない」
 あゆみが無愛想にそう云うのでありました。
「まあ、あれこれ云いましたが、あゆみさんの気持ちが絶対尊重される事を、僕も祈っているのは確かですから、僕はあゆみさんの、あんまり頼りにならない味方ではあります」
「あ、そう。それは一先ず、有難う」
 廊下の方から、是路総士が風呂場から居間に戻って来る気配が伝わってくるのでありました。万太郎とあゆみは目を見あわせて、それを潮に取り敢えずこれまでの話しを一旦打ち切るのでありましたが、万太郎もあゆみも未だ充分に話し足りていないと云う色あいが、互いの眉宇に浮いているのを互いに見て取るのでありました。

 苦虫を噛み潰したような顔で是路総士の報告を聞いていた鳥枝範士が、ゆっくりとあゆみの方に顔を向けるのでありました。
「それで、あゆみはこの話しに乗り気ではないのだな?」
「ええ、道分先生には申しわけないですけど、お断りする心算でいます」
 興堂範士からの申し出があった直近の月曜日に緊急会議と云う形で、鳥枝範士と寄敷範士が招集されるのでありました。勿論議題はあゆみと威治教士の件であります。
 この場には道場運営者の一人として万太郎も同席するのでありました。しかし万太郎は殆ど意見を求められる事もなく、ただ話しの推移を見守ると云う具合でありましたが。
「その方が良かろうとワシも思います」
 鳥枝範士は是路総士の方に顔を戻すと一つ頷きながら云うのでありました。「二人の結婚となると、当然ながら常勝流宗家の継承問題も発生しますからなあ」
 鳥枝範士のその発言を聞いて、あゆみがちらと万太郎に視線を送るのでありました。先に万太郎と二人で話した折に、万太郎が懸念として表明したところでもありましたから。
「私も実は道分先生の話しを聞きながら、その問題が第一に頭に浮かびました」
 当日同席していた寄敷範士が矢張り頷きながら云い添えるのでありました。
「威治が是路家の婿に入ると云う話しではないのでしょう?」
「そう云う話しではありませんでしたなあ。ただ二人の結婚と云うだけで」
 是路総士が鳥枝範士に到って穏やかな口調で応えるのでありました。
「つまりあゆみが威治の嫁になると云う事ですな?」
「私はそう、解釈しましたが」
 是路総士の言葉つきは、話題の重大性に比べるとどこか呑気過ぎるように万太郎は感じるのでありました。まあ、是路総士は何時も穏やかさを崩さない人ではありますが。
「そうなるとあゆみは道分姓になるのですから、常勝流から是路と云う名前が消えて仕舞いますな。何れ将来、あゆみが常勝流宗家を継ぐとしても、道分姓で継ぐと云う事になりますから、これは如何にも穏やかならぬ事態となります。ひょっとしたら威治が宗家を継ぐ、なんと云う事になったらそれはもう余計、ただならぬ按配になりますな」
 鳥枝範士はそう云って腕組みをして、陰鬱気な顔を天井に向けるのでありました。
(続)
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