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お前の番だ! 311 [お前の番だ! 11 創作]

「その点なんですが、・・・」
 万太郎はクラッカーを口に運ぶあゆみの手つきを見ながら訊くのでありました。「道分先生は、若先生があゆみさんにすんなり受け入れられると、本当に何の疑いも持たないでこの縁談話しを、今日持っていらしたのでしょうかね?」
「そうじゃないの。その話しをする道分先生の様子は、何時もと同じであっけらかんとした風だったし。まあ、話しの性質から、ほんの少し改まった感じもあったけどさ」
「だとしたら、あの、武道事に限らずあらゆる事況を的確に読んで、諸方に目端の利き過ぎるくらい利く道分先生にしては、いやに迂闊であるような気がするのですが」
「どう云う事?」
 あゆみは小首を傾げて万太郎を見つめるのでありました。
「つまり若先生に対するあゆみさんの気持ちくらい、常日頃のあゆみさんの素っ気なさを見ていれば、疾うに気づかれていても良さそうなものじゃないですか」
「あたしそんなに威治さんに対して、普段から素っ気なかったりしたかしら?」
「それはもう!」
 万太郎はそう云って力強く二度頷くのでありました。「まあ、素っ気ないと云うよりは、敬して遠ざけると云った風ですかね。僕如きが傍で見ていてそう感じていたのですから、道分先生ともあろう方が気づかれていない筈がないと思うのです。だったら、若し若先生に仲立ちを懇願されても、状況から鑑みてその願望を叶えるのは無理だろうから諦めろと、諄々と諭すところじゃないでしょうかね。その方が若先生の傷も浅く済むと踏んで」
「それはまあ、当のあたしがこんな分析的なもの云いをするのも何だけど、親心、と云うのか、身贔屓の混じった臆断、と云うのか、何と云うのか。・・・」
 あゆみが興堂範士の肩を持つような、持たないような云い様をするのでありました。
「いや、道分先生と云う方が親であるからこそ、僕は態々破れる事を承知していながら、こんな無謀な縁談話しなんかを持ちこまれたりはしないと思うのです」
「まあ、道分先生のお気持ちの在り処とかは、わたしは判らないけれどさ」
 あゆみはそう云ってコーヒーを一口飲むのでありました。釣られて万太郎も、あゆみのコーヒーよりは余程冷め切ったコーヒーを口に入れるのでありました。
「だから、ひょっとしたら道分先生は何か全く別のご了見がおありで、それで敢えてこの縁談話しを持ってこられたのではないでしょうか?」
「何か別のご了見、と云うと?」
「いや、それは未だ僕には何とも判りませんが、しかしそう云う風に考えても、あながち不自然ではないように思われるのですが」
「あたしと威治さんが一緒になる事で起こる、常勝流の将来、とかの事?」
「まあ、例えばですが、常勝流宗家の跡目の事とかです。いや勿論。道分先生の事ですから、総本部と興堂派との発展的な統合とかをお考えになっているのかも知れないと。・・・」
 万太郎は遠慮からあくまでも好意的な観測を述べるに止めるのでありました。しかしそう云うと、何やらキナ臭い話しの気配がどうしても滲み出て仕舞うのでありました。
(続)
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