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お前の番だ! 260 [お前の番だ! 9 創作]

「大岸先生、いらしてくれていたのですか」
「退院祝いを述べに寄せていただきました」
 大岸先生はそう云って立つと鳥枝範士共々、是路総士が廊下に上がるのを邪魔しないように脇に体を避けるのでありました。
「布団を母屋の部屋に延べてありますが、すぐに横になられますか?」
 万太郎がそう訊くと是路総士はすぐにげんなり顔で首を横にふるのでありました。
「いや、大丈夫だ。もう病院で寝厭きた」
「押忍。では布団は仕舞っておきます」
 万太郎はそう云ってから来間に視線を向けるのでありましたが、来間は万太郎のサインに気づかないのでありました。万太郎はその鈍さに秘かに舌打ちして、是路総士の部屋の布団を片づけておくようにと言葉で指示し、それから準内弟子は一応内弟子控え室の方に下がっていろと指図してから、師範控えの間に向かう一行の最後尾につくのでありました。
「たった二週間しか離れていなかったが、この部屋の匂いも懐かしい」
 万太郎の介添えで床の間を背にした座布団に腰を下ろした是路総士は、座敷を見回しながら云うのでありました。「まあ、匂いと云っても古畳の臭いなんだがな」
「総士先生、お帰りなさいませ」
 是路総士の対面に並んで正坐した鳥枝範士と寄敷範士、その後ろに控えるあゆみと万太郎と、その一団とは少し離れたところに居る大岸先生が、鳥枝範士の発声で一斉に威儀を正して座礼するのでありました。是路総士も綺麗な座礼でそれに応答するのでありました。
「皆さんには本当に、ご心配をかけました」
「改めてご退院をお祝い申し上げます」
 寄敷範士のその言で、もう一度一同が揃って低頭するのでありました。
「じゃあ、あたしは御膳の用意がありますから」
 大岸先生がそう云って立つのでありました。
「退院祝いにと、大岸先生が昼の御膳を調えてくださっております」
 鳥枝範士が是路総士に報告するのでありました。
「ああ、それは慎に申しわけありません。色々気をお使いいただいて恐縮です」
 是路総士が大岸先生にもう一度お辞儀するのでありました。
「いえ、大層なものは出来ませんが、ほんの心尽くしと云う事で」
「じゃあ、あたしも手伝います」
 あゆみも立ち上がるのでありました。
「今日は若い人が大勢いらっしゃるから大丈夫よ。皆で色々と手伝ってくれるから。あゆみちゃんはここで皆さんとお話しがあるでしょう?」
「でも御膳の支度は、あたしの方が余程手際が良いでしょうから」
 あゆみはそう云って大岸先生について師範控えの間を出るのでありました。入れ代りに来間が片倉を従えて茶を運んでくるのでありました。
「来間、二三の者を食堂に手伝いに行かせろ」
(続)
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