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お前の番だ! 256 [お前の番だ! 9 創作]

 あゆみは万太郎を一直線に見るのでありました。「組形こそ、確実な目を持った者がその正確さを確認する必要がある。未熟な者が自分の考えであれこれ形を解釈して行うと、結局形稽古の意義を満たす稽古にはならない事が間々起こる。それよりは確実な目がそこにないのなら、乱稽古や準乱稽古で相手との息の絡みあいを錬る方が余程為になるだろう。乱稽古は形を崩して変化させて、形で培った技を実用するための術を養おうとする稽古だから、そう云う稽古を経て後、また形稽古に臨めば形の意味が改めて鮮明になろう、と」
「成程、そう云うものでしょうかね」
 万太郎は一端口を噤んで、少しの間を取って改めて訊くのでありました。「では、どのような形式の乱稽古を行うのでしょうか?」
「試合時間を八分として、一本取ったらその時点で止めとする。一本の判定は常勝流の組形の技であるかどうかには拘らない。相手の面や首、それに胴や小手に、充分威力のある打ちこみか突きが入ったらそれで一本とする。組形稽古と同じで面や胴に防具はつけないけど、籠手はつける。籠手以外は防具がないから、必要以上の強襲は厳に慎む事とする」
「で、ここに居る者が交代で一組ずつ出て、そう云う稽古をするわけですね?」
「いや、全員で同時に行う。他の組とぶつかったりするのは、要するに状況をちゃんと読んでいないと云う事で、そう云った一種の多敵の備えも同時に錬る事にする」
 万太郎は郷里の熊本で行っていた、捨身流の竹刀剣道稽古を思い浮かべるのでありました。捨身流では高校生までは形稽古よりは竹刀剣道の稽古が主でありましたか。
「それで、この時間中は乱稽古のみを行うのですか?」
「いや、前半は組形稽古を行う。あたしと折野の認識の及ぶ範囲で、指導もする」
「押忍。判りました。僕は異存ありません」
 万太郎はそう云ってあゆみにお辞儀するのでありました。万太郎が異存ないのなら、来間や他の準内弟子達に異見を述べる者は当然いないのでありました。
「尚、この形式の内弟子稽古は総士先生が復帰されるまでとして、先生のご復帰後は改めてそのご指示を仰ぐ事とする」
 あゆみのその言葉に下座の全員が「押忍」と声を揃えるのでありました。こうして新しい形式の内弟子の剣術稽古がその日から開始されたのでありました。
 こうして始まった内弟子の剣術乱稽古では、矢張りあゆみと万太郎に腕で敵う者は一人もいないのでありました。その次に力のある来間も、あゆみと万太郎の力量には到底及ぶ事が出来ず、況や他の準内弟子連中等は軽くあしらわれると云った具合でありましたか。
 準内弟子としてこの稽古に参加出来るのは、片倉、山田、目白、狭間、高尾と、それからもう一人山口と云う者であります。ジョージは夜に仕事があるために殆ど顔を出さないのでありましたが、参加出来ないのが如何にも残念と云う顔で悔しがるのでありました。
 勿論、稽古時間が夜遅くからでありますから、日中に用事のある者や学校に通っている者でもやる気さえあれば参加可能なので、常時六人程が顔を出すのでありました。試合形式の稽古は形稽古とは違ってゲーム性があって面白いためか、来間も準内弟子連中も何時もにも増して意欲的な面持ちで参加すると云った有り様でありましたか。
(続)
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