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お前の番だ! 255 [お前の番だ! 9 創作]

「いや、詳しくは何も話してはいません。だた、これからはあゆみ先生と折野先生が総本部での稽古を主導する事になるだろうと云っただけです。後は世間話しのような事です」
「門下生に対して道場の内部の事情は殊更秘匿する事も別にないが、態々こちらから打ち明ける必要もない。門下生にはその内に自然に判る。披露すべきなら鳥枝先生や寄敷先生が披露されるんだから、内弟子が勝手な了見で喋る事じゃない」
 万太郎は少し語調を厳しくするのでありました。しかし喋るべきかそうでないかの判断なんかも、ひょっとしたら自分達に任されるのだろうかとふと考えるのでありました。
「押忍。気をつけます」
 来間は頷くのでありました。来間が新木奈と交わす世間話し、と云うのも万太郎には少し興味があるところでありますが、それは万太郎の立ち入る筋ではないでありましょう。
「明日、道場に来る準内弟子連中の顔ぶれは?」
 万太郎は語調を緩めるのでありました。
「朝からはジョージと目白、午後の稽古からはその二人と入れ替わりで狭間と高尾が来ます。それに明日は世田谷の駒沢に出稽古があります。自分が助手につく予定です」
「駒沢の出稽古はあゆみさんの担当だったが、多分寄敷先生と代わる事になるだろう」
「判りました」
「さて、日誌をつけ終わったのなら食堂に行くぞ」
 万太郎はそう云って立ち上がるのでありました。来間は「押忍」と返事してから鉛筆を傍らの筆立てに差して日誌を閉じるのでありました。
 夜遅くの内弟子の剣術稽古には寄敷範士に同行して小金井に行っていた山田が、鳥枝範士の助手として八王子に行っていた片倉が帰ってきて合流するのでありました。このところ常時準内弟子が数人混じるようになったので、以前のようなあゆみと万太郎と良平の三人だけの稽古の時よりは、幾らか賑やかな風情があるのでありました。
 この剣術稽古も当然あゆみと万太郎が主導するのでありましたが、入院する前には是路総士が時々覗きに来て、気が向けば指導をしてくれる場合もあるのでありました。云わば内弟子に是路総士が差しで剣技の伝授をしてくれる貴重な機会でありました。
 しかし今はあゆみと万太郎がその役を担わなければならないのでありますが、到底是路総士の代役は務まらないと万太郎は思い做しているし、あゆみとて同様でありましょう。ならば是路総士の復帰までこの剣術稽古をどのように仕切れば良いのか、如何なるところに重点を置いた稽古にすれば良いのか、万太郎とあゆみには悩ましい課題でありました。
「今日から暫くはこの時間の剣術稽古は、主に袋竹刀を使った乱稽古とする」
 あゆみが稽古に際して先ずそう宣するのでありました。「今日病院に行った折に総士先生にもご裁可をいただいている。総士先生のご復帰までと云う限定ではあるけど」
 乱稽古とは試合形式の稽古であります。
「形稽古も未熟な我々が、今の段階で乱稽古に専念して大丈夫でしょうか?」
 万太郎が疑問を呈するのでありました。
「それはあたしも思ったけど、総士先生はこんな風におっしゃったわ」
(軸)
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