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お前の番だ! 252 [お前の番だ! 9 創作]

 しかしあくまで武道でありますから、規律や態度は一般門下生と云えども厳格さを求められはするのでありました。本来、命の遣り取りを前提に創られた武術の技を稽古するのでありますから、緩んだ気持ちは専門稽古生でも一般稽古生でも等しく厳禁であります。
 常勝流の稽古着が白と決められているのは、それは、死に装束、と云う意味もあるのだと前に鳥枝範士から万太郎は聞いた事があるのでありました。この稽古に於いて死んだとしても文句はないと云う覚悟と真摯さを、稽古着の白に表わしていると云うのであります。
 現代に行われ稽古される武道ではあるものの、その遺風を酌んでいるのでありますから、稽古態度や礼容に厳しさを求められるのは殊更云うまでもない事であります。そう云う文化を快く思わないのなら、何も敢えて武道を習う意味はないと云うものでありましょう。
「はい、では今日の技を」
 あゆみがそう道場中に響く声を上げると、下座に下がる門下生とは逆に来間が道場中央のあゆみの傍に向かって飛び出すのでありました。あゆみは手本技を来間を相手に何本か繰り返し、技の勘所なども解説して門下生達にその技の反復稽古を促すのでありました。
 夫々に二人組んで組形を稽古する門下生達の間を、あゆみと伴に回り指導している万太郎に、偶々来間と組んだ新木奈の声が聞こえてくるのでありました。
「今日は鳥枝先生の予定なのに、何であゆみさんが中心指導する事になったんだい?」
 それに竟応えようとする来間を制するように、万太郎は言葉をかけるのでありました。
「おい来間、稽古中に余計なお喋りは慎め」
 万太郎に注意されて来間は発しようとした言葉を呑みこむのでありました。直接新木奈を窘めたのではないのでありますが、当然新木奈もたじろぐのでありました。
 傍を去り際に新木奈と目があうのでありましたが、新木奈は慌てて万太郎から目線を外して興醒め気に口の端に固く力を入れるのでありました。一応万太郎の注意にたじろぐのでありましたから、自分の緩んだ態度が不謹慎であると判ってはいるのでありましょう。
 稽古後に仕来たり通りの礼が済んであゆみが道場から去ると、新木奈は万太郎と来間の傍に早速来るのでありました。範士以上の者が退場する時には介添えに誰かが必ず付き従うのでありましたが、教士の場合、露払いはつかないのでありました。
 新木奈は取り敢えず先に万太郎に如何にもおざなりな風の座礼をするのでありました。万太郎も正坐してこちらは律義らしく応えるのでありました。
 次に新木奈は来間にも、もっとくだけた感じの座礼をするのでありました。来間は流石に内弟子でありますから、きちんとした礼容でそれに対するのでありました。
「さっきの話しの続きだけど、今日はどうしたわけで、鳥枝先生の代わりにあゆみさんが中心指導をする事になったんだい?」
 新木奈は万太郎にではなく来間に気安そうにそう訊くのでありました。それは受け取り方によっては、傍にいる万太郎の耳にも聞かせて、先程の稽古中に受けた万太郎の注意への対抗として、遠回しな意趣返しをしているようにも受け取れる態度でありました。
 万太郎は何となくげんなりして二人から離れるのでありました。その万太郎の傍に、他の門下生達が寄って来るのは万太郎と稽古後の礼を交わそうとして、でありました。
(続)
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