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お前の番だ! 250 [お前の番だ! 9 創作]

 万太郎はそう云って律義らしく是路総士にお辞儀するのでありました。酒は置いていくとしても茶碗とかコップはあるのかしらと、万太郎は前に倒した頭の隅で心配するのでありましたが、ま、その辺は是路総士が何なりと手立てを尽くすでありましょう。
「ではこれで失礼します。くれぐれも酒は医師や看護婦や掃除の人等の病院関係者、それに同室の入院患者さんにも見つからないようにしてください」
 寄敷範士が声を潜めるのでありました。
「心得ました。抜かりなくやりますよ」
 是路総士は眉根に力を籠めて頷くのでありました。
 病院から道場に戻った万太郎と寄敷範士を、内弟子の来間と準内弟子の三人が揃って玄関で迎えるのでありました。師範控えの間の障子戸の前で寄敷範士と別れた万太郎は、来間を引き連れて母屋の食堂に向かうのでありました。
「ああ、万ちゃんお帰り」
 食堂では夕食の仕こみでもしているのか、エプロンをかけて流し台に向かっているあゆみが万太郎を迎えるのでありました。
「ただ今戻りました」
 万太郎は食堂入口で気をつけをしてあゆみに低頭するのでありました。
「お父さん、案外元気そうだったでしょう?」
「そうですね。手術翌日なのにもうベッドに座っていらしたのには驚きました」
「最近は手術直後でも寝かせたままにしないで、すぐに起こして色々体を動かしたりさせられるそうよ。病院では入院患者もゆっくり気儘に寝ていられないんだって」
 あゆみのその言葉に笑いかけた後、万太郎は台所入口脇に立って控えている来間の方に顔を向けるのでありました。
「おい来間、すぐにお茶を師範控えの間に持って行け」
「押忍。承りました」
 来間はそう云われてようやく気づいた、と云った表情をして慌ててポットと急須の置いてある台の方に進むのでありました。
「茶を出したら、鳥枝先生がお使いになっていた湯呑はちゃんと下げてくるんだぞ」
「押忍。承りました」
 来間は急須に湯を注ぎ入れながら返事するのでありました。
「どうも来間は、人柄は決して横着ではないんですけど、なかなか気が利きませんね」
 来間が新たに淹れた茶を二つ盆に載せて台所を出ると、万太郎は少し苦った表情をしてあゆみに愚痴を云うのでありました。
「そうね。万ちゃんや良君のようにはいかないわね」
 あゆみが同意するのでありました。「でも、その内変貌するでしょう、鍛えられて」
「まあ、気が利かない代わりに、云われた事は無精しないで打ちこむタイプですが」
「武道家としては、そう云う気質は寧ろ褒められるものでしょう」
「しかし、臨機応変、も武道には求められます」
(続)
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