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お前の番だ! 243 [お前の番だ! 9 創作]

「そう云っている。同じ事を、態々言葉を変えて念を押すな」
 万太郎はどうしたものか不機嫌な口調でそう来間を叱るのでありました。しかし特段不機嫌になっていると云うわけでもないのでありましたが。
「押忍。済みません」
 来間がたじろぎながら慌てて万太郎に頭を下げるのでありました。万太郎があゆみと共に急に総本部道場の総ての稽古を任される事になったので、屹度ナーバスになっていて不機嫌なのだろうと来間は受け取ったのかも知れません。
「出張指導の助手にしても、総本部での稽古や諸事にしても、総士先生が復帰されるまではお前等も一層気を引き締めて繋って貰うぞ。若し何か総士先生のお留守中に無様な事でもあれば、留守を預かる者として総士先生は元より門下生に対しても申しわけがない」
「押忍。承りました」
 万太郎の訓言に対して四人が声を揃えるのでありました。
 稽古では見所に座った寄敷範士は、万太郎の指導には本当に何も口出ししないのでありました。万太郎が先ず、来間を相手に示した課題技を個々に門下生が繰り返している時でも、見所から降りて門下生の間を巡って夫々に声をかける事もしないのでありました。
 しかしながら寄敷範士の姿が道場内にあると云うだけで、矢張り場が引き締まるのでありました。若し万太郎一人の指導に依る稽古であったなら、この緊張感を稽古時間中に亘って高い状態に維持するのは至難であったかも知れません。
 稽古が終わると自分の指導に対する講評を貰おうと、師範控えの間へ来間の先導で戻った寄敷範士の下に万太郎はすぐに参じるのでありました。
「如何でしたでしょうか、今の稽古は?」
「そうだな、概ね良かったんじゃないか。技術の説明に関しても大まか過ぎる事もなく、微に入り過ぎる事もなく程の良い説明であったし、時間中に門下生達にダレも全く見られなかったからな。寧ろ俺の稽古の時より連中の目は意欲的だったように見えたぞ」
 寄敷範士はそう云って万太郎に微笑むのでありました。
「押忍、有難うございます。しかし自分としては寄敷先生のように上手く、門下生達に高いモチベーションを維持させ続けられる指導が出来たか、心許ない気がするのですが」
「いやいや、その辺は問題なかろうよ。お前の説明は明快だし、思わぬ着眼もあって気が散らない。俺も聞き入ったくらいだ。見本の技にしても、自分の凄いところを見せてやろうとか云った外連味もなく、あっさりと演武するところが大いに好ましかった」
 万太郎にとっては過分な程の寄敷範士の評言でありましたか。万太郎は安堵すると同時に、内心大いに喜ぶのでありました。
 万太郎が師範控えの間を辞そうとしていると、是路総士の見舞いに病院へ行っていた鳥枝範士とあゆみが帰って来るのでありました。あゆみが開けた障子戸から座敷に入る鳥枝範士のために、万太郎は脇に躄って座礼するのでありました。
「おう、お帰り」
 寄敷範士が座布団に腰を下ろす鳥枝範士に声をかけるのでありました。
(続)
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