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お前の番だ! 235 [お前の番だ! 8 創作]

 万太郎とあゆみが集中治療室を出ようとする時、是路総士の様子を見に来たのであろう先程控え室に来た院長が顔を見せるのでありました。
「院長先生、どうも有難うございました」
 あゆみが両手を前に揃えて丁寧なお辞儀をするのでありました。万太郎もその後ろから一拍遅れて頭を下げるのでありました。
「お帰りですかな?」
 院長は是路総士の様子を覗いてから、あゆみの方を見て云うのでありました。
「ええ。帰っても大丈夫だと云う事なので」
「そうですね。患者さんも落ち着いていらっしゃるようだから。後はこちらにお任せ下さい。今は麻酔から覚めたばかりですから虚ろなお顔をされていますが、明日になれば意識もはっきりとして、普段通りのご様子に戻られていますよ」
「どうぞよろしくお願いします。明日、また参ります」
「そうだ、鳥枝さんに何時かまた一緒に飲もうとお伝えください」
 院長は笑いながらそんな伝言を頼むのでありました。
「判りました。伝えます」
 あゆみはもう一度お辞儀するのでありました。出際に万太郎も部屋の中の院長に挨拶の一礼をして、それからドアを静かに閉めるのでありました。
 病院からバスで成城学園前駅の南口まで行き、それから駅の階段を上り下りして北口に出て、またバスを乗り換えて仙川まで戻った頃には夜の十時を回っているのでありました。バスの乗り換えが上手くいけば、病院から家までは三十分を見れば充分のようであります。
 家では留守番をしていた来間があゆみと万太郎を迎えるのでありました。
「どうでしたか、手術は?」
 来間は食堂で電動コーヒーメーカーで二人分のコーヒーを淹れて、それを万太郎とあゆみに出しながら訊くのでありました。来間は学生時代から無類のコーヒー好きの男だったようで、このコーヒーメーカーは内弟子に入る時に彼が持ってきたもので、内弟子部屋に置いていても使わないだろうからと、あゆみの許しを得て台所に提供したのでありました。
「手術は無事に終わったわ。後は完全看護だからあたしたちは帰ってきたの」
 あゆみはコーヒーカップを持ち上げて、揺蕩う湯気の香りを先ず堪能してそれからカップに唇をつけるのでありました。あゆみも実は結構なコーヒー好きのようであります。
「ああそうだ」
 あゆみが急に思い立ったようにカップを受け皿に置くのでありました。「鳥枝先生や寄敷先生や、今日病院まで来ていただいた方にお礼の電話をしなくちゃ」
 あゆみは居間に行って受話器を取り上げるのでありました。鳥枝範士と寄敷範士には懇ろな物腰で、大岸先生には少しくだけた様子で、それから良平にはそれよりもっとくだけた感じではあるものの、丁重に足労に対する謝意を申し述べているのでありました。
「明日からの稽古はどうなるのですかねえ?」
 食堂に残っている万太郎に向かって来間がそう訊くのでありました。
(続)
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