So-net無料ブログ作成

お前の番だ! 230 [お前の番だ! 8 創作]

「それでは僕も残ります」
 万太郎が後に続くのでありました。
「いや、残っていただくのはお一人で構わないのです」
 院長が万太郎を見るのでありました。これは万太郎の方はどうやら身内ではなさそうだと察しての言葉でありましょうか。
「用心のため、男の僕が一緒に居た方が無難かと思うのですが?」
「ああ成程ね。それなら構いませんが」
 夜遅くまで女であるあゆみが一人で残るのは如何にも心細かろうと気遣ってか、院長は万太郎が一緒に残るのをすぐに許可するのでありました。
「よし、それなら折野も一緒に残れ」
 鳥枝範士が頷くのでありました。
「承りました」
 万太郎は、ここは道場ではなく娑婆であるから、頭につける、押忍、を省略してそう返事してから鳥枝範士に一礼するのでありました。
 万太郎とあゆみを残して他の者が病院から引き上げた後、二人は集中治療室から程近い廊下の長椅子に腰を下ろして、是路総士が目覚めるのを待つのでありました。目が覚めたらすぐに呼びに来ると看護婦に云われているのでありました。
 その集中治療室には然程の慌ただしい様子は見られないのでありました。それはつまり是路総士の様態が安定していると云う証しでありましょう。
「ほれ、弁当とお茶を買ってきたぞ」
 二人の前に良平が立つのでありました。良平は二人のために近くのコンビニエンスストアで夕食の弁当を買ってきてくれたのでありました。
「良さんは一緒に食べないのですか?」
万太郎は弁当の一つをあゆみに手渡しながら訊ねるのでありました。
「ああ、俺は帰ってから家で食うから」
「それはそうね。帰ったら奥さんの手料理が待っているものね」
 そう云うあゆみの横に良平が腰を下ろすのでありました。
「総士先生は入院当日、どんなだったんですか?」
 良平は割り箸を割るあゆみに訊くのでありました。
「前の日までは別に何ともなかったのよ。普通に夜の一般門下生稽古を終えて普通に食事して、何時も通りにお酒をちょっと飲んでそれから寝所に引き上げたの」
「風呂で背中を流している時、今日はちょっと腰が張っている、とか云うような事はおっしゃっていたと後で来間が云っていました。しかしそう云う科白は前にも時々伺っていたので、特段心配はしなかったと云う事でした。後で揉みましょうかと云ったら、断られたらしいです。確かに僕が見たご様子も、特にその夜変わったところはありませんでした」
 万太郎が後を続けるのでありました。
「何の兆候らしきもなかったのに、次の日の朝、異変があったと云うわけか?」
(続)
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 10

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0