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お前の番だ! 227 [お前の番だ! 8 創作]

「良君は会社では、鳥枝先生の秘書のような仕事をしているの?」
 あゆみの横にいる大岸先生が良平に訊ねるのでありました。
「自分は今は秘書室と云う部署にいます。会長の専属と云うわけではありませんが」
「秘書室って、エリートコースとか出世コースなんて云われる部署じゃないの?」
「いやいや、良いようにこき使われる何でも屋の雑用係ですよ、我が社では」
 良平が手帳を内ポケットに戻しながら云うのでありました。
「正社員として社に入った頃は、色んな建設現場に出ていたんですよ、面能美は」
 鳥枝範士が大岸先生に笑いかけるのでありました。「これでなかなかこいつは現場での評判が良くて、大工やら左官やら鳶と云った職人連中にも大いに気に入られましていましてな。連中は生っちょろいのが来ると途端に嘗めてかかりますけど、どう手懐けたのか、本社の良さん、とか呼ばれて、棟梁なんかからも妙に可愛がられる始末でして」
「良君は内弟子の頃も、何につけても手際も要領も良いところがあったからねえ」
 大岸先生が良平の顔を真顔で見ながら頷くのでありました。
「いやいや、手際と要領だけでは連中の意を得る事は出来ません。そこはそれ、人知れず自分なりに大いに気苦労もしたわけですよ、実は」
 良平が、感慨深げな表情を作って云うのでありました。
「面能美の事だから、最初が肝心と云うので、手始めに大立ち回りでもして、常勝流の多人数取りの要領で連中をギャフンと云わせたか?」
 寄敷範士がからかい半分に云うのでありました。
「いやそんな事はしませんよ。ま、全くしない事もなかったですが。でも、喧嘩が強いだけじゃあ連中を心服させる事は出来ません。実際はもう、誠心誠意の一辺倒ですよ」
 良平が判るような、判らないような曖昧な言葉で回答をするのでありました。
「ふん、誠心誠意の一辺倒、ねえ」
 寄敷範士は端から信用していないような受け応えをするのでありました。
「ま、要領が良い、と云えば、それが一番当たっているだろうよ」
 鳥枝範士がこれも判るような、判らないような不明快な結論を出すのでありました。「兎に角、それでこいつは評価を上げたのは事実だなあ」
「で、秘書室に移ったんだ?」
 大岸先生が頼もしそうに良平を見るのでありました。
「いやいや、なかなか」
 良平は車のワイパーのように掌を横にふるのでありました。
「その後に総務部にも行かされましたし、営業部にも行きました」
「それで、ワシとしては全く意外でしたが、こいつは何処でも、超優等とはいかないまでも、そこそこ堅実にそこの仕事を熟しましてね、それで次第に社長の覚えも目出度くなって、秘書室に移して、取締役連中の使い走りを今、させているわけですな」
「じゃあ矢張り、出世コースじゃない」
 大岸先生は目を見開いて一つポンと拍手するのでありました。
(続)
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