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お前の番だ! 225 [お前の番だ! 8 創作]

「どう良君、仕事の方は?」
 ひょっとしたら三年ぶりに良平の顔を見る大岸先生が声を向けるのでありました。
「はい。今みたいに会長に叱られながら、ぼちぼちやっていますよ」
「お習字の方はもうすっかり止めちゃったの?」
「ええ、何となく毎日忙しくしているんで、ずうっと沙汰止みです。済みません」
「奥さんは元気?」
「はい、お陰様で元気にしています」
「赤ちゃんは未だなの?」
「未だですね。こっちに関しては別に沙汰止みと云うわけではないのですが、なかなか」
「まあ。・・・」
 良平が何となく際どいようなそうでないような受け応えをするものだから、大岸先生は急にどぎまぎして次の質問が続けられなくなるのでありました。二人の遣り取りを見ながら、あゆみが口に手を添えて笑い出すのでありました。
「ここは病院の中なんだから、不謹慎な冗談は止めておけ、面能美」
 鳥枝範士が良平に叱声を向けるのでありました。しかしそのくせ口の端には笑いを浮かべているのでありましたから、これは迫力に欠ける叱責と云うものであります。
 良平が現れた後、また暫くしてから寄敷範士が控え室に顔を見せるのでありました。この日は道場の定休の月曜日でありましたから、寄敷範士も新宿の自分の会計事務所で仕事を終えてから、すぐにこの病院へ駆けつけたと云う事でありました。
 寄敷範士がやって来ると万太郎が入れ替わりに給湯室に行くのは、寄敷範士に出す茶を入れるためでありました。大岸先生には既に出していたから、万太郎は寄敷範士と良平の分を淹れて、それを給湯室にあったアルマイトの盆に載せて控え室に戻るのでありました。
「そんなに時間がかかっているとは、少し心配だなあ」
 万太郎が戻ると、寄敷範士が鳥枝範士と並んで座ってそんな事を云っているのでありました。万太郎は寄敷範士の前に茶碗を静かに置くのでありました。
「ま、執刀医は腰の権威と云われている整形外科医だから、同丈夫だとは思うが」
 鳥枝範士が応えるのでありました。
「鳥枝さんの懇意の人かい?」
「いや、ワシの懇意はこの病院の院長で、その線で大学の方から来てもらったんだ」
「ここは鳥枝さんの家からも近いねえ」
「そうね、ここは世田谷の大蔵だから車で来れば十分もかからんよ」
「道場からも車で二十分も見れば来られるか」
「鳥枝先生にこの病院をご紹介いただいて、案外近くて助かりました」
 二人の向い側に座っているあゆみが会話に加わるのでありました。「今日の手術の段取りにしても、態々道場が休みの日にとの先生の一声で無理に日程を調整していただきましたし、入院する時にも色々便宜を図っていただいたし」
「何の々々。門弟として当然の事」
(続)
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