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お前の番だ! 217 [お前の番だ! 8 創作]

「あゆみさんは、そう云う連中の事をどう思っているんだろう?」
 良平がコーヒーを飲んで喉の鉄槌をまた上下させるのでありました。
「さあそれは皆目判りませんけど」
「一番蓋然性の高い筈の興堂派の若先生は、あんまり好きではなさそうだがなあ」
「そうですね。それは普段のちょっとしたあゆみさんの素ぶりからも感じられます」
「あの若先生は性格もああだし、聞こえてくる噂も、周りの評判も芳しくないからなあ」
 確かに万太郎も興堂派道場の若手内弟子たる堂下善郎からも、専門稽古生の宇津利益雄からも、威治教士の品行に対する不評は頻繁に聞き及んでいるのでありました。と云う事は、興堂派の一般門下生の間での評判も推して知るべしと云うものであります。
「ところで、あゆみさんは総士先生の跡目を継ぐ事に躊躇いがあるみたいですよ」
 万太郎はあゆみ本人の事に話しを移すのでありました。
「あれ、そうなのかい?」
 良平は口の中の花林糖の咀嚼を不意に止めて万太郎を見るのでありました。
「前に一緒に興堂先生の処に出稽古に行った時、そんな事をおっしゃっていました」
「俺はその事は全く知らないなあ」
「随分前にも、僕はそんな風な事をご本人の口から聞いた事があると思います」
「へえ。と、なると、興堂派の若先生の蓋然性はぐっと下がるか。その代りに我が道場内の門下生達の仄かなる野望の実現性がグッと増すわけだな、これは」
 良平は咀嚼を再開するのでありました。
「しかしあゆみさんに意中の人がいるとしても、ウチの道場にいるとは限りませんよ」
「それはそうだ。この世界にどっぷり浸かっていると、こう云う処に屯する男共の感心出来ない面も、あれこれ多く見てきていると云うわけだろうからなあ」
「武道の世界以外の人と考える方が、あゆみさんが跡目を継ぐのを躊躇っているという事と、何となく関連しているようにも僕には思われるのですが」
「そうか。成程」
 良平が二度頷いて、その動きが関連するかどうかは定かならぬのでありましたが、花林糖を二度くぐもった音を響かせて噛むのでありました。
「誰か心当たりでもあるかい、万さんは?」
「いや、皆目」
「どだいあゆみさんは他の世界の人との交流のチャンスが、そうはないと思うけどなあ」
「書道関係とかは考えられます。それに例えば学校時代の友達とか同級生とか」
「いや、あゆみさんは女子大に行っていたんだから、同級生と云う線はないだろう」
「高校生の頃の同級生とか上級生とかはどうですかね?」
「ああ、それはあるかも知れないか。それに幼馴染みとか」
「あゆみさんは生まれてからずっとここで生活していたんですし、幼馴染みなら一緒の家に生活している僕等にも、その候補が何となく思い浮かぶでしょうに」
「それもそうだな」
(続)
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