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お前の番だ! 204 [お前の番だ! 7 創作]

「へえそう。誰?」
「来間注連男と云う男です」
 万太郎が咀嚼の合間を縫って応えるのでありました。
「あたし知らないわね、その人」
「大岸先生とは面識はないかも知れませんね。未だ学生さんで一般門下生として入門して来て、それから暫くして専門稽古生になった人ですよ」
 あゆみがそう応えながら、大岸先生の真似をして指でトウモロコシの粒を扱き取るのでありました。こちらはあんまり上手くないようであります。
「入門は僕が少し先ですかね。でも、来間ももう修業歴三年と云う事になります」
 万太郎はまたトウモロコシに齧りつくのでありました。
「幾つになるんだっけ、その人?」
「僕より三歳年下です。来年の三月に大学を卒業するのを機に、内弟子になるのです」
「どんな感じの人?」
 大岸先生は興味津々と云った目で万太郎に話しの続きを強請るのでありました。
「そうですねえ、生一本の真面目人間と云った風ですかねえ」
「堅物って事?」
「ま、概ねそうですかね。少し気の弱いところがありますが。でも稽古が好きで上手くなりたい一心、と云った風で、そのせいで道場では律義で堅物と見えるのでしょうかね」
「ふうん。まあ、稽古が好きだと云うのは内弟子として何よりな事だけど」
 大岸先生は扱き取った粒を口の中に一粒ずつ放りこむのでありました。
「来間君は万ちゃんに親炙しているんですよ」
 あゆみが、これも大岸先生に倣って指で粒を口に運ぶのでありました。
「へえ、万ちゃんの手下みたいな感じ?」
「いや、そんな事はないのですが」
「稽古でも、来間君は何となく万ちゃんの動きや癖を、一生懸命に真似ようとしているところが見えるわ。万ちゃんと話していても、万ちゃんの云う事は絶対だって感じだし」
 あゆみが淡々とそう話すのでありましたが、淡々とそんな事を云うだけに、傍目にはそう云う関係として自然に映っているのだろうと万太郎は頭の隅で思うのでありました。
「じゃあ万ちゃん、これから少し横着が出来るわね」
「いやあ、来間は何でも生真面目に取り組むけれど、然程気が利く方ではありませんからねえ。云われれば無難に何にしろ一通り熟すけど、自分から先回りして動くタイプではないですから、内弟子の仕事を仕こむのにあれこれ手がかかりそうな気がしますよ」
 万太郎は大岸先生にそう云いながら、こんな事を憚りなく云っているのだから、矢張り自分は来間を手下と見做しているのかも知れないと思うのでありました。来間は万太郎の弟弟子になるのだけれど、それは手下とはまた違う存在である筈であります。
「それからこのところあちらこちらと出張指導の依頼が増えているから、専門稽古生の中で手伝って貰える人達には、積極的に助手として活動して貰う事になるらしいですよ」
(続)
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