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お前の番だ! 202 [お前の番だ! 7 創作]

 万太郎は慌てて弁明するのでありました。「総士先生からは内弟子として日々多大な恩恵を既にいただいておりますので、この上ここでオムライスまで頂戴するのは弟子として余りに慎みがなく無調法と云うものでありますから、平に遠慮申し上げる次第です」
「何だかんだとあれこれまわりくどい云い方をしておるが、つまり要するに、爺さんの食べかけは要らんと云う事だろう?」
「いえ、決してそのような」
 万太郎は是路総士に向かって深くお辞儀するのでありました。
「ま、良いわい。要らんと云うのならやらん」
 是路総士はあっさり引き下がるのでありました。別に万太郎に是非ともオムライスを分け与えたいと云うわけではなく、成り行きから面白がってそう提案したまででありましょうから、やるやらないと何時までも云いあう必要はないと云うものでありますか。
 万太郎と是路総士の遣り取りを眺めながら、あゆみと大岸先生が堪え切れないと云った風情で笑うのでありました。とまれ万太郎の胃袋は女性二人からの飯と魚フライとポークカツのお裾分けに与って、至極満足であったのは間違いない事ではありました。

 月曜日で道場が休みの日ではありましたが万太郎が母屋の庭掃除をしていると、大岸先生が生垣の切れ目から庭に入ってくるのでありました。大岸先生は何時も現れる時は、まるで通用門のように人一人が通れるくらいの生垣の隙間から入って来るのでありました。
「これ、お裾分け」
 大岸先生は庭箒の手を止めて笑いかける万太郎に、両手で持ったサラダボールを掲げて見せるのでありました。中には茹でたトウモロコシが七八本入っているのでありました。
「あ、美味そうなトウモロコシですね」
 万太郎は庭箒を脇に立てかけて、サラダボールを受け取ろうとするのでありました。
「これはあたしが台所の方に持っていくわ」
 大岸先生は出された万太郎の手からサラダボールを少し遠ざけるのでありました。「あゆみちゃんは今家に居るの?」
「ええ。朝食後の後片づけ中だと思います」
「万ちゃんはお休みの日だと云うのに、今日も内弟子仕事?」
「ええ。道場は休みでも内弟子稼業は年中無休です」
「偉いわねえ」
「いや別に偉くもないですね。要するに良さんと違って僕は、休みの日と云っても特にやる事が何もないと云うだけですから」
「良君は何処かに出かけたの?」
「香乃子ちゃんの実家に」
「香乃子ちゃんと云うと、良君のフィアンセ?」
「そうです」
 良平は一月ほど前に鳥枝範士の仲人に依り婚約を果たしたのでありました。
(続)
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