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お前の番だ! 200 [お前の番だ! 7 創作]

「いやそうはならんだろう。道分さんはその辺を弟子たちにも曖昧にした儘だから」
「自得しろ、と云う事ね」
「ま、武道の先生なんと云うのは昔から自分の技や動きを弟子に見せはするが、その鍛錬法やら勘所と云った辺り関しては、仄めかす事はあっても矢鱈には教えないものだな。ひょっとしたら将来、その教えた弟子が自分の敵になるやも知れないからなあ」
 とは云うものの、是路総士は自分の弟子に対して、かなり懇切な指導をする人なのでありました。自分が会得したものを平気な顔で惜しみなく開示してくれるのであります。
 しかしまあ、だからと云ってその懇切さが即、総ての弟子の進境を保証するものではないのは当然であります。で、ありますが、全く有難いのは云うまでもない事であります。
「特に古武道なんと云うのは、そう云う気風が未だ色濃く残っている世界だ」
 是路総士は自嘲のような笑みを頬に浮かべてそう云うのでありました。
「しかし総士先生からは、丁寧で微細な点も判り易く教えていただけますよね」
 万太郎があゆみの真似ではないけれど、小首を傾げるのでありました。
「そうかな?」
 是路総士は苦笑いを濃くするのでありました。「折野の云う通り丁寧だとして、しかしそれが弟子にとって益になるか徒になるか、その辺は今のところ何とも云えんだろうなあ」
 つまり益になるか徒になるかは、お前等弟子の了見次第だと云われているのだろうと万太郎は思い巡らして、内心些かたじろぐのでありました。
「あら、ご免なさい大岸先生、話しがすっかり武道の事になっちゃって」
 あゆみが大岸先生の方にビール瓶を翳して云うのでありました。
「ああそうだ、書道展の帰りだと云うのに、迂闊にも無粋な話しになって仕舞ったな」
 是路総士が恐縮の笑いを浮かべて横の大岸先生に頭を下げるのでありました。
「いえいえ、横で聞いていると、あたくしにも大変為になります」
 大岸先生はグラスを持ち上げてあゆみの注ぐビールを受けるのでありました。
「そろそろお食事の方をお持ちいたしましょうか」
 この席のビールの残量に懈怠なく目配りしていたのであろう中年のウエイターが、席の傍に寄って来て大岸先生にお辞儀しながら訊ねるのでありました。
「ああそうね、お願いします」
 大岸先生はウエイターに応えてから、急に是路総士の顔を見るのでありました。「総士先生は、もうお飲物はよろしいでしょうか?」
「ええ、結構です。食事にしましょう」
 程なく夫々の注文した品が卓上に並べられるのでありました。
「万ちゃん、ご飯を少し貰ってくれない?」
 大岸先生が万太郎に片方の手にライスの盛られた皿を、もう片方の手にフォークを持って訊くのでありました。「あたしにはご飯が少し多いから」
「じゃあ、あたしも少しあげるわ」
 あゆみも顔を万太郎の方に向けて云うのでありました。
(続)
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