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お前の番だ! 196 [お前の番だ! 7 創作]

 あゆみが今度は万太郎の酌を受けながら云い添えるのでありました。「最終日は丁度道場の定休だから、その日はまたお手伝いするつもりでいるけど」
「その最終日は折野も一緒か?」
「はい。最終日こそ力仕事も色々あるでしょうから僕の出番です」
 万太郎は、注ごうか、と云うあゆみの表情だけによる問いかけを遠慮して、自分で自分のグラスにビールを注ぎ入れるのでありました。
「力仕事と云っても、会場の撤収作業は本部の方から人が来るから、万ちゃんの出番は殆どないかも知れないけどね」
 大岸先生はそう云った後で居住まいを改めるのでありました。「それじゃあ、総士先生、今日は態々お出ましいただきまして有難うございました。それからあゆみちゃんも万ちゃんもご苦労様でした。万ちゃんの受付姿は、慇懃過ぎもせず無愛想でも全然なくて、なかなか様になっていたわよ。明日もその調子でお願いね」
 大岸先生は両手でグラスを目の高さに差し上げるのでありました。「では、乾杯」
 大岸先生の音頭に三人が和唱するのでありました。あゆみがグラスを近づけてきたので、万太郎はお辞儀しながら自分の持つグラスをそれに軽く当てるのでありました。
「会場でちょっと云ったけど、興堂派の威治さんがお見えになったの」
 あゆみが是路総士に話すのでありました。
「道分さんの云いつけにより来たのかな?」
「いただいたお祝いの熨斗袋には、常勝流興堂派道場、と書いてあったけど、届いた花篭の方は威治さんの名前だけ書いてあったわ」
「ふうん。じゃあ、花の方は威治君の好意と云うわけか」
 好意、と云うよりは、売りこみ、ですよと万太郎は云いたいところでありましたが、勿論そんな事は口には出さないのでありました。
「そう云う事になるのかしら」
「熨斗袋だけでは愛想がないと思って、気を利かせて花も添えたかな」
 そんな気を利かすべき時に気を利かすような人物ではなかろうと万太郎は思うのでありましたが、勿論これも口の外には出さないでおくのでありました。
「それで、昼食もご馳走になったの。精養軒で」
「ほう、精養軒まで連れて行かれたのか?」
「そう。席を予約してあるからって」
「ふうん。なかなかのサービスだな、それは」
 是路総士はグラスを空けるのでありました。万太郎が注ぎ差す前に、横に座る大岸先生が瓶を取って是路総士のグラスにビールを注ぎ入れるのでありました。
「あたしは展示会を中座してきたものだから、食事も早々に終えてすぐに会場に戻ったの。食事を奢ってもらった手前もあるから、一応帰ると云う威治さんを上野駅まで見送りに行って、威治さんは、じゃあまた稽古で、とか云って、改札で別れたのよ」
「そりゃ威治君に余計な金を使わせてしまったな。後で私からも礼を云っておこう」
(続)
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