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お前の番だ! 193 [お前の番だ! 7 創作]

 万太郎にそう問われて良平は息を一つ大きく吸いこんで、暫くそれを腹の中に納めた儘吐き出さないのでありました。それは何やらかなり重大な事をこれから話そうとするための用意のように思えて、万太郎も同じく息をつめるのでありました。
「俺は一年後に、内弟子稼業を一先ず切り上げるよ」
 良平は溜めた息を吐き出すようにそう云うのでありました。
「道場を辞めるのですか?」
「つまり、そうだな」
 良平はこの後少し黙るのでありました。これは結構重大な決意の吐露でありますが、良平の表情は張りつめたものではなくて意外にクールなのでありました。
「常勝流を止めて仕舞うのですか?」
「いや、常勝流の稽古は止めやしないよ。内弟子ではなくなるけれど」
「香乃子ちゃんと結婚するとなると、香乃子ちゃんとの生活のためとかそれを支える収入なんかの点で、内弟子の儘でいるわけにはいかないと云う事ですか?」
「まあ、大雑把に云えばそうかな」
 良平は口の端を少し笑いに動かすのでありました。この笑いは未だ自分でも充分に整理出来ていない彼の複雑な心根に、自分で戸惑って思わず漏れたのでありましょう。
「準内弟子とか一般門下生になると云うのですか?」
「それも厳密には違うな」
「どういう風に常勝流武道を続けるのですか?」
「一先ず鳥枝建設の常勝流愛好会の専属指導員になる」
「ああ成程」
 万太郎は一つ頷くのでありました。「鳥枝建設での週一回の稽古だけを指導すると云うわけですか。でもそれだけでは何となく収入の面でも、立場の面でも香乃子ちゃんとの結婚生活を支えるには、今の境遇よりも心許ないような気がするのですが?」
「だから鳥枝建設に、単なる武道指導員としてではなく、正社員として就職するんだよ」
「ああ、それで鳥枝建設から正社員としての給料を貰うのですね?」
「そう云う事だね」
 それならばまあ、安定的な一定の収入の確保は出来るでありましょう。
「常勝流総本部道場の内弟子から、鳥枝建設社員に転職すると云うわけですね?」
「そうなると鳥枝建設の就業時間に縛られるから、内弟子は務められなくなる」
「それはそうでしょうね」
 万太郎は納得顔で頷くのでありました。
「総士先生と鳥枝先生の、俺の立つ瀬を考えてくれた粋な計らいだ」
「粋な計らい、ですか?」
「まあ、そう思う事にする。常勝流の稽古は止めないで済むし、香乃子との結婚も出来る」
「そう云やあそうですが、今まで内弟子としてガンガンやってきた体術や剣術の稽古が、鳥枝建設の週一回の愛好会での稽古だけになるのは、如何にも寂しくはないのですか?」
(続)
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