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お前の番だ! 187 [お前の番だ! 7 創作]

「押忍、承りました」
 万太郎はそう返事して師範控えの間を下がるのでありました。良平は鳥枝範士が云うところの、小難しい難題、の関連で呼びつけられるのでありましょう。
 小難しい難題、とは何でありましょうや。良平が何か仕出かしたのでありましょうか。
「良さん、鳥枝先生が師範控えの間に来るようにとおっしゃっていますよ」
 万太郎は納戸兼内弟子控え室に居た良平に伝えるのでありました。
「判った。すぐに行くよ」
 良平がやや緊張の面持ちで応えるのでありました。
「何かやらかしたのですか?」
「まあ、やらかしたと云えばやらかした、ような、・・・」
 良平は良く判らない曖昧な事を口走ってから天井をゆっくり見上げるのでありました。その後、目を万太郎に戻して意味有り気にニヤリと笑うのでありました。
 良平が師範控えの間に去った後、万太郎は気転じに黒帯を一つしごいてから、塵叩きを取って納戸兼内弟子控え室の掃除に取りかかるのでありました。一通り叩き終わって箒で畳を掃こうとしていると、引き戸の向こうからあゆみの声が聞こえるのでありました。
「万ちゃん居る?」
「押忍。居ります」
 万太郎が応えるとあゆみが引き戸を開けるのでありました。その日はもう稽古がないので、あゆみは普段着に着替えているのでありました。
「三人で何の話しあいしているのか、万ちゃん知ってる?」
 三人とは当然是路総士と鳥枝範士、それに良平の事でありましょう。
「さあ、僕は知りませんねえ」
 あゆみが普段着なので万太郎は母屋に居る時の口調で云うのでありました。
「良君は万ちゃんに何も云っていないの?」
「特段何も聞いていませんが」
「ああそう。何も聞いていないんだ?」
 そう云う口ぶりからするとあゆみは何か知っているような気配であります。
「あゆみさんは、控えの間で何が話しあわれているのか知っているのですか?」
「良君が呼ばれたんだから、屹度あの話しだわ」
 あゆみが勿体ぶるのでありました。
「何ですかそれは?」
「良君は本当に、万ちゃんに全く話していないの?」
 あゆみの片方の眉尻と口の端が少し上がるのでありました。片目がやや見開かれて片頬が微笑に作られたその表情は、如何にも仔細有り気なのでありました。
「生一本に、何も聞いていませんよ」
「何となく照れ臭いものだから万ちゃんには云わないのかなあ?」
 あゆみは、今度はやや口を引き結んでから首を傾げて見せるのでありました。
(続)
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