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お前の番だ! 184 [お前の番だ! 7 創作]

「どうぞゆっくり見ていってください」
 大岸先生がもう一度新木奈にお辞儀して受け取った花束を抱えて控室に去るのは、花瓶にその花を活けるためでありましょうか。
「じゃあ、僕も受付に座っていますからご自由に見学してください」
 万太郎は新木奈をそこに残して受付席に引き取るのでありました。新木奈は展示してある書なんぞには元々さして興味はないのでありましょうが、どうせあゆみが帰って来るまでここに留まっている心算でいるのでありましょう。
 あゆみは、一人で展示会場に帰って来るのでありました。威治教士はあゆみと昼食を共にした後には、もうここへは戻って来ないのでありました。
「お帰りなさい。随分ごゆっくり、でしたね」
 万太郎は隣の受付席に座ろうとするあゆみに云うのでありました。
「ご免なさい。精養軒まで連れて行かれたのよ」
「上野公園の中の精養軒ですか?」
「そう。不忍池の近く」
「随分と格式のある処で食事したんですね」
「威治さんが予め席を予約していたみたい」
 始めからその魂胆は大体知れていたのではありますが、これで威治教士が書道の展示会に来たのではなく、そこに居るはずのあゆみを誘って精養軒で食事をするために、態々上野までやって来たという事がはっきりしたと云うものであります。目的を達した威治教士は、もう書道展なんぞには見向きもしないでさっさと家に帰ったというわけでありますか。
「ところで新木奈さんが来ていますよ」
 万太郎はあゆみの横顔に向かって報告するのでありました。
「新木奈さんって、道場の?」
「ええ。一般門下生の新木奈さんです」
 あゆみは後ろをふり返って新木奈の姿を探すのでありました。
「へえ。書道展の事を何処で知ったのかしら?」
「さあ、それは知りませんが、花束をいただきました」
 また顔を元に戻したあゆみの横顔に万太郎は云うのでありました。
「じゃあ、ちょっと挨拶しておかなければ悪いわね」
 あゆみは席から立つと奥に向かうのでありました。あゆみとすれ違うように控え室から、先程新木奈から貰った花を挿した花瓶を持って大岸先生が出てくるのでありました。
 大岸先生はそれを何処に飾ろうかと会場の中を見回すのでありましたが、適当な場所が見つからなかったようで、暫し思案した上で受付席の方に歩み来るのでありました。新木奈の持ってきた花が、万太郎の斜め前にドンと置かれるのでありました。
「適当な場所がないからこのお花はここに置くけど、邪魔にはならないわね?」
 いや邪魔です、とも云えず、万太郎は一つ頷くのでありました。
「今し方、あゆみさんが戻られて、新木奈さんを捜しに奥に行かれました」
(続)
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