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お前の番だ! 182 [お前の番だ! 7 創作]

 展示会場に戻ると、持ってきた弁当を控え室でスタッフが交代しながら食うのでありました。万太郎は大岸先生に勧められて真っ先に、書類や衣類、それに何やらの入った紙袋等が積まれた控え室の大きな折りたたみ机の上に弁当を広げるのでありました。
 どうせなら上野公園辺りに出かけて、うららかな日差しの中でのんびりベンチに腰かけて食したいものでありましたが、手伝いと云う立場上そうもいかないのでありました。そう云えばあゆみと威治教士の二人は、何処で昼食を取っているのでありましょうや。
 あゆみには会場に訪れた様々な人に挨拶をしたり、案内をしたりと云った仕事があるのでありますから、そうはゆっくりともしていられない筈であります。依って食後に威治教士に喫茶店とかに誘われたとしても、それを断って早々に戻って来る筈であります。
 万太郎は弁当についてきた苺を頬張りながら、壁にかけてある時計を見上げるのでありました。ま、もう少し経ったら屹度戻って来るのでありましょう。
「お先にいただきました」
 万太郎は控え室を出るとドアのすぐ傍に居た大岸先生に一言挨拶してから、また受付の方に向おうとするのでありました。
「ああ万ちゃん、お昼で来る人も疎らになったから、もう少し控え室の方で休んでいても構わないわよ。ほら、これでも飲んで」
 大岸先生はそう云って万太郎に缶コーヒーを渡してくれるのでありました。
「ああどうも済みません。貰って良いのですか?」
「これを渡しに控え室に入ろうとしたら、丁度万ちゃんが出てきたのよ。万ちゃんは相変わらずご飯を食べ終わるのが早いわね」
「早飯、早風呂、それに早ぐ、・・・いやこれは良いとして、兎に角、食事を早く済ませるのは武道修行者としての嗜みだと鳥枝先生に何時も云われていますから」
「ああ、成程ね」
 大岸先生は少し口を尖らせた表情で納得するのでありました。「まあ、何にせよ立てこんでいない今の内にゆっくり休んでいてね。慣れない受付なんかして疲れただろうから」
「判りました。じゃあ控え室でこれを頂戴しています。用があれば呼んでください」
 万太郎は大岸先生にお辞儀してからまた控え室の中に戻るのでありました。しかしそれにしてもあゆみはそろそろ戻って来ても良い頃なのだがと思いながら、万太郎は缶コーヒーのプルリングを引き上げながら壁の時計にもう一度目を遣るのでありました。
 小一時が経過したと云うのに、あゆみはちっとも戻って来ないのでありました。これは多分、威治教士と食事の後にお茶でも飲んでいるか、或いは上野公園辺りでも散歩しているに違いないと万太郎は推測するのでありました。
 あゆみからそんな誘いをするわけはないでありましょうから、屹度威治教士が無理強いにあゆみを離さないのでありましょう。あゆみもあゆみで仕事が待っているのだから、そんな威治教士の迷惑な誘い等はきっぱり断って戻って来れば良いと云うもののであります。
 受付仕事に復帰した万太郎は時々腕時計に目を落としながら、何となく苛々としているのでありました。その万太郎の前に、またもや見知った男が立ち現れるのでありました。
(続)
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