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お前の番だ! 168 [お前の番だ! 6 創作]

 あゆみはそう呟いて、正面を向いて考えを巡らしているようでありました。「訊くまでもないけど、良君のお相手なんだから、当然若い人よね?」
「一応黙秘します」
「そうか、総本部の門下生じゃないけど、時々出稽古に来る若い女の人か。・・・」
 あゆみに相手が知れたら良平は怒るかなと万太郎は少し危惧するのでありました。
「僕は何も応えませんよ」
 万太郎は口を引き結ぶのでありました。
「外野仁美さん?」
「いいえ、違います」
 万太郎は首を横に一回ふるのでありました。
「じゃあ、奈古利由紀子さん?」
「いいえ、違います」
「和可礼唄江さん?」
「いいえ、違います」
「川井香乃子さん?」
「・・・黙秘します」
「ああ、川井香乃子さんね」
 万太郎は一応仕舞ったと云う表情をするのでありました。あゆみはその万太郎の顔を見てニンマリと笑うのでありました。
「万ちゃんて、案外判り易い人よね」
「今更間抜けな云い様のようですが、僕は誰の名前も一切云っていませんからね」
「そうそう。万ちゃんは何も云っていません」
 あゆみがあしらうようなニンマリ笑いを未だ浮かべた儘で頷くのでありました。「でも、川井香乃子さんと云ったら鳥枝建設の常勝流愛好会の人ね」
「そうです。僕も良さんも一応鳥枝建設の嘱託社員ですから、香乃子ちゃんとは同期と云う事になります。良さんは初めて鳥枝建設の稽古に行った時から、香乃子ちゃんの事が気になっていたようですよ。可愛い子がいたぞ、なんて帰ってから僕に云っていましたから」
「今の万ちゃんの発言で、良君のデートのお相手は川井香乃子さんであっさり決定ね」
 あゆみは顔のニンマリ笑いを増幅させるのでありました。
「僕は何処までも頷きませんからね」
「はいはい。頷かなくて結構よ。でも川井香乃子さんなら良君にお似合いかも知れない」
 あゆみは思い巡らすようにゆっくりと上を向くのでありました。和装であるからあゆみは髪をアップにして、服の小紋と同じデザインの白兎の髪飾りで後ろに束ねているのでありましたが、そのために幾本かの解れ毛に彩られたあゆみの長く細い首筋が、美しい線を描いて抜き衣紋の襟から手弱やかに伸び上がるのでありました。
 万太郎は何故か急に眩しくなって思わず目を逸らすのでありました。道場で見る稽古着姿の襟首の体裁とはまた違った印象の、香しいあゆみの佇まいでありました。
(続)
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