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お前の番だ! 148 [お前の番だ! 5 創作]

 興堂派は総本部からは独立した団体なのではありますが、常勝流を名乗る以上はその総帥たる是路総士に、自派の動静を逐一報告しておくべきだと興堂範士は律義に弁えているようであります。こう云った慎に義理堅いところ等も、興堂範士が各界の様々な人士に大いに持て囃される要因であると云えるでありましょうか。
「でも、総本部と違って、こちらは派勢がお盛んですよねえ」
 あゆみが愛想を云うのでありました。
「なあに、支部開設の条件が総本部より好い加減だと云うだけじゃよ」
 興堂範士はそうすぐに返すのでありました。あゆみとしては興堂派の支部道場が次々に増える事のみを云ったのではなく、入門者が引きも切らない事やら、興堂範士その人の世間の耳目を引く派手な活躍なんかも含めて殷賑であると表したのでありましょうが。
 しかし故意かどうかは不明瞭ながら、興堂範士は支部道場が開設されるスピードの速さのみに限定して、あゆみの評言を受け取って見せるのでありましたし、それは総本部のように厳格な開設のための条件がないためだと自歉的に解説するのでありました。これは興堂範士の是路総士に対するある種の忌憚と解すべきものでありましょう。
「ところで今日は、あゆみちゃんはウチで稽古をしていかんのかね?」
 興堂範士が話頭を変えるのでありました。
「折角お邪魔したんですから、久しぶりに道分先生のご教導をいただきたいと思って、稽古着を持参してまいりました」
「おおそれは結構。あゆみちゃんが稽古に参加してくれると稽古が華やぐわい」
 興堂範士は廊下の万太郎に目線を移すのでありました。「じゃあ折野君、着替えが済んだらあゆみちゃんと一緒に先に道場に行っていてくれ」
「ああそうだ、・・・」
 万太郎が興堂範士の言葉に押忍の返事をする前に、あゆみが竟うっかりしていたと云う顔をしてそう云い出すのでありました。「このタイミングで云うのも何ですが、何時も当方の面能美と折野がお世話になっております。今後ともよろしくお願いいたします」
 あゆみはそう云ってお辞儀してから、茶目な笑みを浮かべて見せるのでありました。興堂範士はあゆみのその愛嬌たっぷりの表情につい微笑を誘われたようでありました。
「ああ、何の々々」
「その事もちゃんとご挨拶しなくちゃいけなかったのですけど、うっかりしていて」
「それもあにさんに云えと頼まれたのかい?」
「いえ、特にそのような事はないのですが」
「と云う事は今の言は、直の姉弟子が可愛い弟分の引き回しをよろしく頼むと自らワシに依頼する、弟分への気遣いの言葉と云うわけじゃな。なかなか弟思いの姉さんじゃな」
「会社なんかで上司が直接担当の部下を、自分の目の届かないところで色々不作法をするかもしれないけれど寛容にお願いしますとか、お得意さんに挨拶するでしょう、そんな感じの言葉ですかね。だから弟分に対してと云うよりは、こちら様に対しての気遣いです」
 あゆみが妙にクールにその心根の在りかを興堂範士に申し述べるのでありあました。
(続)
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