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お前の番だ! 145 [お前の番だ! 5 創作]

「建前上は、ですか?」
「古武道の世界はえらく保守的で、驚く程古臭い慣習があって、女が流派のトップになるにはあれこれと難しい問題があると思うのよ」
「いくら古武道とは云っても民主主義の男女同権の世の中に存在するのですから、そう云った風習は変化しても良いんじゃないでしょうかねえ」
「昔から連綿と続く伝統を尊重しなければ、それはもう古武道ではないでしょう?」
「しかし何であれ古い伝統を今に誇るものも、その歴史の中で、その時々に多少の変化はしてきているものだと思いますよ」
「許される変化と許されない変化があるんじゃないかしら」
「女性を跡取りにする事は、許される変化の内だと僕は思いますが」
「何か、万ちゃんと話しをしていると何時も会話が小難しくなるわね」
 あゆみはそう云って万太郎から目を外すのでありました。その仕草は、もう万太郎とこの話しはしないと云うきっぱりとした拒絶ではなさそうでありますが、しかしあゆみを多少うんざりさせて仕舞ったかしらと万太郎は内心狼狽えるのでありました。
「済みません。小難しくする心算は全然ないのですが」
 万太郎は頭を下げるのでありました。その折に右肩に荷っていた風呂敷き包みが肩先から肘の方に滑り落ちるのでありました。
「ま、要するにあたしは常勝流の跡取りになる気はないの」
「そうなると総士先生の代で道統が途絶える事になるのではありませんか? またまた、小難しい話しになって恐縮ですが」
 万太郎は風呂敷き包みを肩上に摺り上げるのでありました。
「その辺はお父さんや鳥枝先生や寄敷先生が、良しなに考えてくれるんじゃないの」
「ああそうですか。・・・」
「あたしね、大学を出たら銀行か何処かに就職してOLになろうと思っていたの」
 あゆみは前を見ながら云うのでありました。「でも、色々あってそれは止めたの」
「OLに、ですか?」
 万太郎はあゆみのOL姿を想像するのでありました。銀行の窓口か何かで、制服を着て髪の毛を後ろに束ねて、手を前に組んでお辞儀するあゆみの像は、それはそれでなかなか可憐であろうと思われるのでありました。
「別にOLになるのが夢とか云うのじゃなかったけど、武道を離れて普通の会社勤めの生活をするのも悪くないなって云う風にも思ってはいたの」
「小さい頃から内弟子の扱いでやっていた、或いはやらされていた常勝流武道の稽古に倦んだ、と云ったところですか?」
「ううん、そうじゃないの。あたしは道場での稽古が好きだもの。でも、何となく女が一生どっぷりと浸かり続ける世界じゃないなって、そんな風に思うようになったのよ」
「ふうん、そうですか。・・・」
「でもまあ、色々あって、今のこんな風な感じになっちゃったけどさ」
(続)
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