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お前の番だ! 140 [お前の番だ! 5 創作]

「そう云えば今日の宴会で三方さんと新木奈さんの間で、どんな遣り取りがあったの?」
 あゆみが万太郎と良平の顔を交互に見ながら訊くのでありました。
「いやまあ、直接道場の稽古に関係のあるような事ではなかったのですが。・・・」
 万太郎は言葉が喉の途中で滞るような云い方をするのでありました。
「あのお二人は前から仲があんまり良くなかったかしら?」
「いやそうでもないと思っていましたが。第一、新木奈さんが今日の居酒屋の宴会に三方さんを誘って、三方さんはちゃんと参加したくらいですからね」
「日頃からお互いに本当はあんまり快く思っていなかったけど、一応一般門下生稽古で一緒に汗を流す義理から、新木奈さんが三方さんも誘った、と云う事はありますかね」
 良平がまたあゆみの杯に酒を満たすのでありました。
「二人共他の一般門下生からは比較的懐かれている方だと思っていたが」
 是路総士が万太郎の酌を受けながら云うのでありました。
「三方さんはどちらかと云うと白帯の人達には面倒見の良い兄貴分的な存在で、黒帯の目上の人にも、行き届いた気配りの出来る人だと思われていると云うのが僕の印象です」
「そうですね、自分も三方さんにはそう云う印象を持っています」
 良平が一つ頷いて万太郎の三方評に賛意を示すのでありました。
「新木奈さんはどちらかと云うと、三方さんのように皆さんに慕われていると云うよりは、敬されている、と云った感じでしょうか」
 万太郎が云うのでありましたが、これは、尊敬されている、或いは、重んじられている、と云わないところがミソで、言外に、敬して遠ざけられている、と云う色調を秘かに含ませている言葉の選択であります。少なくとも、敬せられているが心服されているわけではないと云った辺りをそこはかとなく匂わそうとしたのであります。
「二人共白帯の一般門下生の中ではリーダー格と云ったところでしょうか」
 良平が万太郎の後に続けるのでありましたが、実は万太郎にはその云い方にはあっさり賛同出来ないところがあるのでありました。三方にはそれに近いものがあるかも知れませんが、新木奈の在りようは、リーダー、と云うようなものではないと思うのであります。
「二人共、良く稽古にいらっしゃっているしね」
 あゆみが頷いて見せるのでありました。それは万太郎の言外に微妙な色を含ませた、温度の低い新木奈評に特に頷いていると云うわけではなさそうでありました。
「そうだな。意欲的だな、確かに二人共」
 是路総士が肯うのでありました。熱心は熱心でも、三方と新木奈の熱心さはちょいとばかり色あいが違うと万太郎は思うのでありました。
 三方は確かに、先ず常勝流武道が好きだから繁く通ってきているようでありますが、新木奈は然程に常勝流の稽古に熱意を持っているとは思えないのでありました。新木奈の熱意の拠りどころは、単にあゆみに逢いたいと云う一点でありましょう。
 それは稽古態度を見れば明瞭であります。新木奈は稽古中に稽古に無関係な事を一緒に組んだ相手と喋っていたり、不要な笑い声を憚る事もなく立てたりするのでありました。
(続)
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