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お前の番だ! 137 [お前の番だ! 5 創作]

「他の方達はもう一軒行くかとおっしゃって、別の居酒屋に向われました」
 万太郎が後を続けるのでありました。
「良君と万ちゃんは一緒に行かなかったの?」
「ええ。明日の朝の道場仕事もあるからと帰ってきました。それにこのところ懐不如意でもありますし、二次会に行くのならそこの代金は俺が持つと、頼もしくおっしゃっていた筈の新木奈さんの姿が、いつの間にか見えなくもなったものですから、ま、それで」
「新木奈さんはどうしたの?」
「いや判りません。矢張り二次会を遠慮して、三方さんを負ぶった来間さんを見送りに皆さんと仙川駅へ行って、改札前でさよならを云い交わしている時にはもういらっしゃいませんでしたね。一次会の居酒屋を出た後、すぐにどこかへ行かれたのでしょう」
「皆にさよならの挨拶も云わないで?」
「ええ、まあ、そうですね」
 どうせ酒に酔った三方にくどくどしく絡まれて、気分を害して二次会に行く気も失せて、そんな不貞腐れた態度に及んだのであろうと万太郎は推察したのでありました。しかしその辺の経緯をあゆみに説明するのも億劫であったから、万太郎は何故新木奈がそんな無愛想をするのかまるで見当がつかないと云った顔をしているのでありました。
 どだいあゆみが参加していない飲み会でありましたから、新木奈には初めからそれ程気乗りのしない会であったのでありましょう。あゆみの目以外の視線に、自分の良いところを見せようと頑張る了見なんぞも端から新木奈にはないでありましょうし、だからさよならも云わずに姿を晦ましたとしても、当人は別に何とも思ってはいないでありましょう。
「宴会中に何かあったの?」
 あゆみが首を傾げて訊くのでありました。
「まあ、酔いつぶれる前の三方さんとちょっと小難し気な云い争いをされていまして」
 良平がコップの麦茶をすっかり飲み干してから云うのでありました。
「云い争い?」
「ええまあ、云い争いと云うのか新木奈さん相手に三方さんがくだを巻いたというのか」
「それで怒ってさよならも云わずに帰ったってわけ?」
「その真意は俄には判りませんが、思い当る事と云ったらそれくらいです」
「ふうん」
 あゆみはそう云って顰め面をして首を横に何度かゆっくりふるのでありました。これは新木奈の態度に対してそう云う反応を見せたのか、それとも宴席の和気藹々たるべき雰囲気を壊して酔い潰れて仕舞った三方の無粋に対してなのか、或いは二人になのか、万太郎には俄に判断出来ないのでありましたが、まあ、両者に、と云う事でありましょうかなあ。
「おう、帰っていたのか」
 丁度風呂から上がって居間に戻った是路総士が、未だ濡れた頭をタオルで拭いながら食堂の方に声をかけるのでありました。
「お父さんそんなところで頭を拭いたら髪の毛が畳に落ちるじゃない」
(続)
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