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お前の番だ! 135 [お前の番だ! 5 創作]

「早かったところを見ると、雲仙に回る必要はなかったか?」
 是路総士が万太郎に訊くのでありました。
「押忍。鳥枝先生の名前を出したら仕出し屋ですぐに引き受けてくれました」
「ははあ、成程ね」
 是路総士は納得気に頷いてから鳥枝範士を見るのでありました。「鳥枝さんの勇名は仙川駅周辺の商店や飲み屋に遍く鳴り響いているようですからなあ」
「いやいや、知れ渡っているのは総士先生のお人柄です」
 鳥枝範士は苦笑しながら弁当を大岸先生の前に恭しく置くのでありました。
「万ちゃん済みませんでしたね」
 大岸先生の労いの言葉に万太郎は一礼した後、廊下に下がって前と同じに控えるのでありました。座ってみると少しばかり息が上がっているのが判るのでありました。
「折野、ここはもう良いから、下がって面能美と食事をしろ」
 是路総士がそう声をかけてくれるのでありました。万太郎は一応鳥枝範士の方を窺い見て、鳥枝範士が小さく頷くのを確認してから座敷の方にお辞儀するのでありました。
「では下がらせていただきます」
「万ちゃんと良君のおかずも作ってきたから、それを食べてね」
 大岸先生が頭を起こした万太郎に云うのでありました。
「押忍、有難うございます」
 この師範控えの間の宴が引けて興堂範士と威治教士、それに鳥枝範士が道場から去ってから、万太郎は良平とインスタントラーメンでも作って、それをおかずに飯を食おうと打ちあわせていたのでありました。しかし大岸先生が二人のおかずも作って来てくれたと云うのは、全く以って思いの外の大助かりと云うものでありました。
 一応是路総士から下がって構わぬとの言葉を貰っているものの、徳利のお代わりとか急に呼ばれてもすぐに対応出来るように、範士控えの間の廊下と母屋を繋ぐ扉は開け放した儘で、台所の引き戸も締めないでおくのでありました。それに勿論ゆっくり食事する事は許されないので、内弟子の二人は大岸先生が持ってきた大盛りの野菜サラダと、鶏の唐揚げを冷めた状態の儘、大盛り飯と一緒に忙し気に腹に掻きこむのでありました。
 案の定、食事の終わらない内に控えの間から鳥枝範士の呼ぶ声が届くのでありました。
「僕が行きます」
 万太郎は一緒に立った良平に掌を見せるのでありました。それからその掌で口の周りを拭い、口の中にあるものを急ぎ呑みこんで控えの間に駆けつけるのでありました。
「酒をもう二三本持ってこい」
 廊下で座礼する万太郎に鳥枝範士が命じるのでありました。
「押忍。承りました」
 万太郎はまた台所に取って返して良平に熱燗を三本と伝えるのでありました。
「あいよ、熱燗三本追加!」
 食事中は外していた捩り鉢巻きをまた頭に巻きながら良平が応えるのでありました。
(続)
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