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お前の番だ! 134 [お前の番だ! 5 創作]

「おう、その線でいけ」
 鳥枝範士は万太郎の言葉に大きく頷くのでありました。
「ご免ね、万ちゃん、使い走りさせるようで」
 大岸先生が万太郎に両掌をあわせて見せるのでありました。万太郎は大岸先生の合掌を返って恐縮、と云う風に畏まってお辞儀してから控えの間を出るのでありました。
「良さん、鳥枝先生の云いつけで、もう一人前仕出し弁当を貰いに行ってきます」
 万太郎は台所の食器棚の引き出しからがま口を取りながら云うのでありました。
「大岸先生の分かい?」
「そうです。向こうで先生方と一緒に食事をされるようです。ああそれから僕の戻りが遅いようなら、適当な時間に控えの間に行って、徳利のお代わりをお伺いしてください」
「へい、承りやした」
 良平が居酒屋の横着そうな若い衆の口調で返すのでありました。その良平の言葉の尻が消えない内に万太郎は急いで台所を後にして、内弟子部屋に行くと稽古着を普段着に超特急で着替えて、裏口から外に飛び出すのでありました。
「鳥枝先生のご用命とあっちゃ、逆らうと後が怖いな。先に届けたものと中の品がちょっと変わりますがそれでも構いませんか?」
 仕出し屋の主人は苦笑しながら万太郎に訊くのでありました。
「結構です。取り急ぎでお願いします」
 主人は一つ頷いて暖簾の向こう側に隠れるのでありました。
「さあ、これをどうぞ」
 待つこと暫し、主人が大ぶりの弁当を持って暖簾のこちら側に戻るのでありました。
「有難うございます。無理を云って申しわけありません」
 万太郎は律義に一礼するのでありました。
「内弟子さんもあれこれ用事を云いつけられて大変ですねえ」
 仕出し屋の主人は、出来上がった弁当を万太郎が持ってきた風呂敷に気忙しそうに包むのを見ながら云うのでありました。
「お支払いは如何程でしょう?」
「前のと同じで結構です」
 万太郎は持参したがま口を開くのでありました。
「はい確かに。今、領収証を書きます」
 主人は万太郎の気忙しそうな様が乗りうつったように、領収書を傍らの書類入れからもどかし気に取り出して、殴り書いてそれを万太郎に手渡すのでありました。
「有難うございます。では急ぎますので」
 万太郎はもう一度律義に頭を下げてから仕出し屋を飛び出すのでありました。
「おう、ご苦労」
 道場に帰りついて万太郎は稽古着へ着替えるのももどかしそうに、早速に弁当を控えの間に届けると鳥枝範士がそれを受け取りながら云うのでありました。
(続)
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