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お前の番だ! 133 [お前の番だ! 5 創作]

「大岸先生、お手を煩わせているようで恐縮です。あゆみが先生に頼んだようで」
 廊下で万太郎と並んで畏まる大岸先生に是路総士が声をかけるのでありました。
「ええまあ、頼まれたと云うわけでもないんですが、どちらかと云うとあたしの一存で、ちょっと出しゃばりをさせてもらっております」
「大岸先生お久しぶりですなあ」
 興堂範士が破顔するのでありました。昵懇とは云えないまでも興堂範士と大岸先生は全く知らない同士でもないのでありました。
「ご無沙汰しております。道分先生も何時もながらお元気そうなご様子で」
「さあ、そんなところに居ないで中に入って下さい」
 是路総士が掌で大岸先生を誘うのでありました。
「ではちょっと、ご挨拶だけさせていただきますわ」
 大岸先生は立って控えの間に歩み入るのでありました。万太郎は急いで膝行で大岸先生の後を追い入ると、傍らにある座布団を取って是路総士を見るのでありました。
 是路総士は少し横にずれて自分の隣を空けるのでありました。万太郎は空かさずそのスペースに座布団を置くのでありました。
「折野、大岸先生の皿と箸と、それに猪口も持って来い」
 鳥枝範士が座布団から手を離した万太郎に指図するのでありました。
「押忍。持って来ております」
 万太郎はそう返して、廊下に置いていた盆を持って来るのでありました。鳥枝範士は万太郎の気の利かせ方に満足気に頷くのでありました。
「それから仕出し屋に一走りして、大至急でもう一人前弁当を貰て来い」
「これから急にでは、仕出し屋さんも困るでしょう」
 大岸先生が是路総士の横に腰を下ろしながら云うのでありました。
「なあに、総本部道場の鳥枝が是非にと頼んでいると云えば、何とか用意するでしょう」
「あたしは後程、内弟子のお二方と向こうでいただきますよ。ここはちょっとだけ愛想をさせていただいて、それで失礼いたします。門外の者が長居しても何ですから」
「いやいや、遠慮なさらずに長居してくだされ。男ばかりが旋毛を寄せて飲み食いしていてもつまらんですから大歓迎ですぞ。ねえ、あにさん」
 興堂範士がにこやかな顔で、座った早々の大岸先生に徳利を差し出すのでありました。
「折野、さっさと仕出し屋まで走り出せ。向こうでごにょごにょと断りをぬかしおったら、今後一切出入り禁止にすると啖呵を切ってこい」
「押忍。行ってきます」
 万太郎は鳥枝範士にお辞儀するのでありました。「どうしても駄目な場合は、啖呵を切った後で、仙川商店街の雲仙に寄って何か適当に作って貰ってきます」
 雲仙、と云うのは商店街の中に店を出している、是路総士や鳥枝範士が贔屓にしている日本料理の居酒屋の屋号であります。そこのオヤジが気の良い人で、万太郎も偶に鳥枝範士や寄敷範士に連れて行って貰った事があるのでありました。
(続)
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