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お前の番だ! 130 [お前の番だ! 5 創作]

「武道の弟子たる者、師匠の指導を先ずは全的に受け止めるのが弟子たるの道だ。始めから自分の了見で適当に摘み食いするような態度は、到底弟子の態度とは云えん」
 三方はなおも続けるのでありました。「お前のその小賢し気な稽古態度は、俺は前から気になっていたんだが、今の内に改めた方が良かろうよ」
「まあまあまあ、・・・」
 良平が両掌を三方に示してそれを小刻みに揺らしながら、云う内に次第に嵩じてきたらしい三方の剣幕を抑えにかかるのでありました。

「まあまあ、と云ったところですかな」
 出張指導を終えて師範控えの間に帰ってきた興堂範士が、威治教士の介添えで着替えを終えてから、その日はあゆみが寄敷範士と八王子に出張指導に行っているため、あゆみの手料理の代わりに取り寄せた仕出しの弁当に箸をつけながら云うのでありました。興堂範士は箸で摘んだ椎茸の煮つけを丸々頬張ってから、横に座って同じく仕出し弁当の鰻の蒲焼を口に運んでいる威治教士の方をちらと横目に見るのでありました。
「まあまあどころか、もう立派な跡取りとして門下生方も認めているでしょうに」
 是路総士が日本酒の徳利を興堂範士に差し出しながら返すのでありました。
「いやいや、まあまあと云うのもワシの贔屓目で、未だ到底一派の長としては武道の技量も人間としても到らんと云うのがかけ値なしのところですえわい」
「いやいや、今日の威治君の指導を見ていても、安心感がありましたよ」
 是路総士は威治教士にも徳利を差し出すのでありました。威治教士は照れ笑いを浮かべて「恐縮です」と云いながら持っていた箸を置いて、両手で自分の猪口を是路総士の差し出した徳利の下に持っていくのでありました。
「しかしまあ、ワシももう良い歳ですから今後の事を考えなければならんし、後援してくれる人達も、そろそろ威治が次期総帥である事を明示しておくべきだとおっしゃるものですからな、それで来月よりこの威治を道場長と云う役職に就ける事にしたのですわい」
「ほう、そうですか」
「技量的には筆頭教士の花司馬の方が今のところ上ですが、ま、道場経営の上から威治を道場長にすると云う次第ですわ。技法の面では花司馬、道場全体の仕切りは威治が責任を持つと云う事で、二頭立ての馬車で道場を運営するような按配ですかな」
「着々と将来の布石を打っておられるようで、羨ましい限りです」
 是路総士はそう云ってから猪口を口に当てるのでありました。
「あにさんの処も、ぼちぼち将来の事を考えておかなければならんでしょう?」
「そうではありますが、まあ、ウチはこの鳥枝さんと、それに寄敷さんが良しなに計らってくれるものと、私は到って安心しておりますよ」
 是路総士は横に座っている鳥枝範士を見るのでありました。
「あにさんとしては、あゆみちゃんを跡取りにとお考えですかな?」
「さて、どうしますかなあ」
(続)
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