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お前の番だ! 127 [お前の番だ! 5 創作]

「ひょっとして来間さんは内弟子になりたいのかい?」
 三方が少し身を乗り出しながら訊くのでありました。
「もっともっと、常勝流武道が上手くなりたいと思っています」
 来間のこの応えは、曖昧ながらも彼が内弟子になりたいと希望しているのを、半ば吐露した事になるでありましょうか。
「ああそう。道場の内弟子は生半な覚悟じゃ出来ないと思うよ、ねえ面能美さん」
 三方は良平に話しをふって椅子の背凭れに上体を引くのでありました。
「まあそうですかねえ」
 良平は確信なさ気にそう云いながら万太郎の顔を見るのでありました。
「良さんは別として僕なんかは、実はあんまり覚悟もなくて、就職活動に捗々しい成果が見られないので、偶々ご縁を得た鳥枝先生の勧めで内弟子にして貰ったような次第で」
 万太郎はそう云ってビールを三方のグラスに注ぐのでありました。
「自分も寄敷先生の会計事務所でアルバイトをしていて、先生に誘われてちょっとした好奇心から道場に見学に行って、それでまあ、常勝流と云う武道に一目で惚れて、後先考えずに総士先生に頼みこんで内弟子にして貰ったのです。内弟子になるまでは内弟子なるものがどう云うものかも全く知りませんでしたよ」
 この良平の話しを聞く来間の目が煌めいているのでありました。
「まあしかし折野さんも面能美さんも一年間、厳しい内弟子修行を続けてきたんだから、人に倍する意気地があったというわけだ」
 三方が万太郎の注いだビールグラスに口をつけるのでありました。「来間さんはこの二人に匹敵するだけの性根があると自分で思うかい?」
「いやあ、考えたら僕なんかには到底務まりそうもありません」
 来間は伏し目をして及び腰を見せるのでありました。「お二人の日頃の内弟子としての仕事を見ていても、確かに僕みたいな甘ちゃんがやれるものではないようです」
「ま、止めておいた方が無難だろうよ」
 新木奈が椅子に背を深く凭せかけた儘、薄笑いを顔に浮かべて横から口を出すのでありました。この薄笑いは来間の秘かな志望に向けた冷笑と見えるのでありました。
「考えてみれば覚悟も性根も、実は僕には殆どないのです。毎日内弟子稼業が嫌だ々々と思いつつも辞める踏ん切りがつかないでいたら、いつの間にか一年が過ぎていたのですよ。楽天的と云うのか好い加減というのか、苦境に対する鈍感さが僕の身上ですから、それで今日まで持ったんですね。で、おまけに頃あいで黒帯なんかを貰ったから、少し良い気分にさせられましてね、それで竟、もう少し努めてみようかな、なんと思ったりするのです」
 万太郎は新木奈のそれとは全く違う誠実そうな笑いを顔に浮かべるのでありました。
「今の万さんの意見に一票」
 良平が指を一本立てながら茶目な賛意を示すのでありました。
「ま、これは折野さんの照れ隠しの言葉で、来間さん、本気で聞いてはいかんよ」
 三方が来間にビールを注いでやるのでありました。
(続)
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