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お前の番だ! 123 [お前の番だ! 5 創作]

「有難うございます」
 良平がそう応じて笑いながら頭を下げるのでありました。万太郎も無言ではあるものの一緒にお辞儀するのでありました。
「勿論二人からここの飲み代は取らないから安心してくれよ。予め云っておくけど」
「それは悪いですねえ」
 良平が嬉しそうな顔で諂うのでありました。
「若しこの後二次会に行くとしても、そこでも俺の奢りと云う事にするからな」
 新木奈は一次会の始まる前から気前の良い事を云うのでありました。しかし結局は明日の内弟子仕事に差し支えると云う事で、万太郎と良平は二次会を断るのでありましたが。
 乾杯も済んで料理も揃い、八名は店の真ん中に据えてある大きな円卓を囲んで夫々隣同士で雑談を始めるのでありました。万太郎と良平の黒帯取得のお祝いの宴とは云っても、それはまあ集うための方便みたいなもので、格式張ったような会では全く以ってなく、稽古帰りに道場仲間が集ったと云う風の到って気楽な集合でありましたし、この度の黒帯取得おめでとうと初めに乾杯したら後は式次第も何もないのであります。
「今、道場から貰っている内弟子の給料って幾らなんだい?」
 新木奈が偶々探した話題、と云った感じで良平に話しかけるのでありました。
「四万円ですよ」
 厳密には道場から貰っていると云うよりは、鳥枝建設の嘱託社員として貰っている報酬となるのでありましたが、その辺の事情は特に話さずに良平が応えるのでありました。
「四万円?」
 新木奈が全く意外な額であると云った顔をするのでありました。「大企業の平均的な大卒初任給の半分以下の額だなそれは。そんなんじゃあ、やって行けないだろう?」
 万太郎は新木奈のその問い方に、まるで薄給を蔑むような響きがあるのを感じ取るのでありましたが、それは顔色に出さないで応えるのでありました。
「食事も住む処も一切お金がかからないから、四万円でも持て余すくらいですね」
「しかも遊ぶ時間なんかないし」
 良平が同調するのでありました。
「それにしても、思っていたよりも悲惨な待遇だなあそれは。学校時代の同級生なんかと比較して、普通の会社に就職した連中が妬ましくなんかならないのかい?」
 新木奈は呆れたような笑いを口の端に浮かべるのでありました。
「いや全然妬ましくなんかないですね」
 万太郎は新木奈の口の端の笑いから目を背けて云うのでありました。
「自分が好きで入った道なんだし、待遇とか仕事の内容とかは予め充分判った上で、志を持って内弟子になったんだから、傍がとやこう云う話しじゃない」
 新木奈の隣に座っている、新木奈と同年配でしかも同じ頃一般門下生として入門した、三方成雄、と云う名前の門下生が横から言葉を挟むのでありました。三方は普段は無愛想な顔をしていながら、話すと意外に情味のある人なのでありました。
(続)
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