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お前の番だ! 116 [お前の番だ! 4 創作]

 あゆみが抗弁するのでありました。
「僕も行かないでおこうかな」
 先ず是路総士に、それから食卓のあゆみと良平の前に茶を配った万太郎が自分の分を最後にテーブルの上に置いて、椅子に腰かけながら云うのでありました。
「おいおい、万さんも乗り気でないのか?」
 良平が横に座る万太郎の方に顔をふり向けて驚くのでありました。
「ええ。何となく」
「それじゃあ、折角お祝い会を企画してくれる新木奈さんに悪いだろう」
 良平の声にはやや憤然とした響きが籠っているのでありました。
「万ちゃんは行かないと拙いでしょう。万ちゃんと良君のお祝い会なんだから」
 あゆみも良平に同調するのでありました。
「折野、ひょっとしてお前まで私に遠慮しているのか?」
 是路総士が居間から万太郎を見るのでありました。
「そう云うわけではありませんが、まあ、何となく、申しわけないのですが、気乗りがしないと云うのか、何と云うのか。・・・」
「おい万さん、こういう云い方は語弊があるかも知れないが、一般門下生はそう安くもない指導料を毎月払ってくれる、云ってみればお客さんみたいなものじゃないか。そのお客さんの折角の厚意を受けるのも、俺達道場生の務めの内に入らないか?」
 良平が、聞きようによっては微妙な辺りを云うのでありました。
「一般門下生はお客さんなんですか?」
「そう改まって訊き返されると少したじろぐけど、まあ、稽古に対する意欲なんかは内弟子も専門稽古生も一般門下生も、それはもうその個人の心の持ちようだから、どちらがどうだとは一様に云えないけれど、少なくとも日々の稽古に対する切迫感みたいなものは、一般門下生の方が、それを職業にしている俺達道場生よりは薄いとは云えないか?」
「それはそうかも知れませんがね」
「稽古に対する切迫感が薄い人達の気持ちを、如何に稽古に長く繋ぎ止め続けるかと云うのは、まあ、これも敢えて誤解を恐れずに云うと、・・・」
 良平はここで居間の是路総士の顔をちらと窺うのでありました。「世間一般のサービス業に従事する営業社員の、お客さんに対する接し方と云うのか、心配りみたいなところも、俺達道場生には少しは求められているようにも思うんだがなあ」
「だからと云って一般門下生をお客さん扱いしていたら、武道の稽古なんと云うものは成り立たなくなると僕は思います」
 万太郎は少し憤然とした語調で云うのでありました。「まあ、先輩の云うような側面が僕たち道場生に求められているとしてもですよ、それは稽古そのものの質を提供する事に依って、気持ちを繋ぎ止めるべく僕等としては励めば良いのであって、道場外の飲み食いの誘いを受けるか受けないかと云う事とは全く別の問題なんじゃないですか?」
「原則的にはそうに違いないけど、しかし色々小難しい人情の機微もあってなあ。・・・」
(続)
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