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お前の番だ! 115 [お前の番だ! 4 創作]

 序で、どころか、それが新木奈の本当の魂胆ですよと万太郎は云いたい衝動に駆られるのでありましたが、そこは当然黙っているのでありました。
「序に、と云う事ではないでしょうが」
 良平が新木奈の代わりに云い繕うのでありましたが、あゆみが別に不機嫌になっているのではないのはその表情から判るのでありました。
「まあ、道場生たる三人を一緒に、と云う事だろうよ」
 居間の方から是路総士が云うのでありました。「折角だからあゆみも一緒に出席するといい。私の事は別に気にする事はないよ」
 是路総士は沢庵を口に放りこんでパリと一噛みするのでありました。
「その方が新木奈さんは喜ぶと思いますよ」
 食堂の食卓テーブルの良平が、向かいに座るあゆみを見ながら是路総士と同じように沢庵を一切れ頬張りながら調子をあわせるのでありました。あゆみの参加があったら確かに新木奈は、良平が思う以上に喜ぶであろうことはこれはもう間違いないと、良平の隣に座る万太郎は思うのでありましたが、口の沢庵が邪魔で言葉にする事はないのでありました。
「どうしようかな」
 そう独り言ちた後あゆみは箸を置いて、両掌をあわせてごちそうさまと小声で呟いてから立ち上がるのでありました。それから自分の使った食器を流し台の方に運ぶのでありありましたが、万太郎も慌てて食事終わりの儀式的仕草をしてから、同じように食器を持って流し台の方に行くのは四人分の茶を入れるためでありました。
「お茶は僕が入れます」
 ポットの方にあゆみが手を伸ばしかけたのを制しながら万太郎が云うのでありました。
「じゃ、お願いね」
「押忍、承りました」
 あゆみはちらと万太郎を見てからまた食卓に戻るのでありました。
「でも矢張り、あたしは関係ないから止しておこうかな」
 そうそう、その方が良いと思いますよと、ポットから急須に湯を注ぎ入れながら万太郎は背中であゆみに声を立てずに云うのでありました。
「私に遠慮する必要は本当にないんだよ。こう見えたって私だって風呂も自分で沸かす事が出来るし、着替えが何処にあるかも知っているし、布団も敷けるんだからね。だから偶にはあゆみも家事を忘れて、外で酒でも飲んで楽しんでくれば良いんだ」
「それはそうでしょうけど、でもあたしそんなにお酒が好きな方でもないし、お酒を飲んだからって特段気持ち良くなるわけでもないしさ」
「そんな事云っているけど、私が寝る前の時間に居間で古鏡の写真本でも開いてちびちびやっていると、何時も横に来てお相伴しているじゃないか。私の娘なんだから、本当はあゆみも結構いける口だと踏んでいるんがなあ」
「あれはお父さんへの娘としてのサービスと云うのか、一種のお愛想よ。第一お相伴たって精々お猪口で三四杯程度じゃない」
(続)
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