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お前の番だ! 113 [お前の番だ! 4 創作]

 特段それが鬱陶しいわけではないのでありますが、五歳年上を意識してか、何処か目上が目下に教誨を垂れるような話しぶりをするのが万太郎には鼻につくのでありました。それに屡、どう云う省察によるのか判りませんが、自分は人生の優等生であるみたいな事をふと口走るところがあって、しかも優等生である事を他人に印象づけようと腐心しているといった煩さも一緒に仄見えるので、万太郎は苦手なタイプの人間なのでありました。
 先の祝意の表明にしても、その言葉は取りようによっては稽古時間の圧倒的多さがあるのだから、万太郎と良平が一年で黒帯を取得したのは至極当たり前で、自慢話しにもならないと云う見解を表明したとも取れるのであります。それだけの稽古量があれば誰だって一年で黒帯になれるさと云う、どこか冷えた断定が祝意の裏に潜んでいるのを暗黙に明示しようとする企図があると、勘繰れば勘繰ることが出来る云い草でありましょうか。
 万太郎としてはこの一年間の内弟子として取り組んだ稽古に、他人にはおいそれと真似の出来ないような精進を重ねたつもりでありました。それを単なる、稽古量に対する至極当然の結果、と云った単純な数量計算として評されるのは慎に以って不本意と云うものでありますが、まあ、これは万太郎の勘繰り過ぎと云うものかも知れないのでありますが。
 で、当然新木奈の方も万太郎が自分をあんまり尊重していないと云うのは判るようで、どちらかと云うと彼は万太郎よりは良平の方と心安くしているのでありました。良平は万太郎のように新木奈に対して懐疑的な素ぶりは見せず、寧ろどちらかと云うと、人生のエリート層、に属ずるらしき新木奈に心服しているような節もあるのでありました。
 万太郎が前から踏んでいるところ、実は新木奈は稽古よりもどうやらあゆみにご執心のようで、あゆみに会いたいがため一般門下生にしては熱心に道場に通ってきているようでありました。あゆみの方も万太郎のように新木奈を敬遠するようなところは見せず、話しかけられれば気軽に応対する辺りは、万太郎としては恨めしいところでありますが。
「どうだい、黒帯取得のお祝いに稽古仲間を誘って何時か一杯やろうじゃないか?」
 新木奈が良平の方を向いて提案するのでありました。
「ああ、自分等の黒帯のお祝いと云うのは置くとして、稽古仲間で飲むのはいいですね」
 良平が応じるのでありました。
「何曜日が都合が良いかな?」
「そうですねえ、平日は夜に内弟子稽古があるからだめですが、土曜日だったら七時頃、日曜日だったら八時過ぎくらいなら時間が取れると思います」
「じゃあその線で、ちょっと参加するヤツを募ってみるか」
 新木奈が頷くのでありました。「そうだ、事の序でだからあゆみさんも誘うか」
 新木奈はふと思いついたと云う風にそうつけ足すのでありました。ははあ成程そう云う事か、と万太郎は新木奈の真意を合点するのでありました。何の事はない、万太郎と良平の黒帯取得を出汁に飲酒の会を企画して、それにあゆみを誘うのが新木奈のまわりくどい真の目論見だと万太郎は看取するのでありましたが、これは邪推でありましょうや。
「あゆみさんまで飲み会に参加すると、その夜は総士先生が一人になられます」
 万太郎が脇から水を差すような事を云うのでありました。
(続)
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