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お前の番だ! 99 [お前の番だ! 4 創作]

「そうすると、お前等も間違いなく上にぎりだな」
 良平は腕組みをするのでありました。「上にぎりと並にぎりを一緒に混ぜて一つの寿司桶に盛る筈は通常ないからなあ」
「そりゃそうですね」
「俺の場合は何時も別室に用意してあって、それを向うの花司馬さんやら板場さんと、偶に息子先生も混じって一緒に食う場合が殆どだが、それは同じ寿司政でも並にぎりだな」
「ああそうですか」
 万太郎が寿司政の上にぎりを食った事に、良平は並々ならぬ興味を抱いたようでありました。それは興味と云う心の指向が、羨望と云う薄絹を纏っているようでもありますが。
「どうして興堂先生はそんな酔狂を起こしたんだろう?」
「どうしてかは僕には判りません」
「全くの興堂先生の、ふと思いついた酔狂と云うのなら、今後俺にもそう云う美味しい目が回ってくる可能性も考えられるな」
 良平は腕組みを解かずに、やや首を傾げて、目線を内向させてその可能性についてあれこれ考えているような様子でありました。
「ところで、明日の朝も早いから、もうぼちぼち布団を敷きませんか?」
 万太郎が良平の顔を覗きこむのでありました。
「ああそうだな」
 良平はそう云って腕組みを解くのでありました。「ま、お前が神保町の息子先生から虐められずに帰って来て、先ずは良かったと云う事だ」
 良平はそう云いながら立ち上がると押入れの襖を開けるのでありました。
「明日の母屋の庭掃除は僕の番でしたっけ?」
 布団に入ってから並べた隣の布団に潜りこんだ万太郎が訊くのでありました。
「そう。お前の番だ。俺が道場と玄関の掃除だ」
「ところで鳥枝建設の稽古の方はどうだったんですか?」
 万太郎は間欠的に襲ってくる眠気の隙間を縫って訊ねるのでありました。
「ま、何時もと変わらずだな。鳥枝先生と向こうの古手の黒帯連中に俺がぎゅうぎゅうやられて、それから近くの居酒屋で酒盛りして、鳥枝先生の家のある成城まで先生の送迎車に同乗させて貰って帰って来て、その後はここまで歩いて帰ってきたと云う具合だ」
「何時頃道場に帰り着いたのですか?」
「お前が帰る三十分くらい前かな」
「そいでジャージじゃなくて稽古着に態々着替えて、総士先生を待っていたのですか?」
「そう。ジャージは昨日洗濯したんだが、未だ全然乾いてなくてな。面倒臭いから明日着る予定の稽古着を間にあわせに着てたんだよ。本来道場内では内弟子は稽古着て寝るまで通すものだと前に鳥枝先生が云っていたから、これさえ着ていれば如何なる時でも問題なしだ。この季節、未だポロシャツやTシャツだけじゃ夜はちと寒いからな」
 布団に入る時には、良平はパンツ一丁でありました。万太郎もそうでありますが。
(続)
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