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お前の番だ! 84 [お前の番だ! 3 創作]

「ではそれ以前から総本部道場に来ていたのか?」
「ええ。その三か月前から通いの内弟子と云う事で」
「通いとは云っても内弟子には違いないから、実質的には常勝流を始めて半年程になるわけだ。道理で二か月にしては内弟子としての挙措が板についていると思ったよ」
 花司馬筆頭指導員は納得したと云う風に二度程頷くのでありました。
「いえ、未だまごつく事があれこれあります」
「しかし是路先生はどちらかと云うと癖のない方だから仕えやすいだろう。ところが興堂先生は意表を突く行動が多くて、なかなか手を焼くよ」
「ああそうですか」
「風呂に入っても先ずゆっくり湯に浸かるか、それとも先に体を洗うかはその日の気分次第だし、出稽古に行く道順も思いつきで不意に変えてみたりでな。なかなか先読みの効かないタイプでだから、俺なんか気が利かんと云ってよく叱られているよ」
「確かに是路先生はそう云う事はあまりやられませんね。どちらかと云うと決まった通りを律義に滞りなくこなされると云った風ですね」
「内弟子としてはその方が有難い」
 花司馬筆頭教士が愛想良くこう云った打ち解けた繰り言のような話しをしてくれると云うのは、万太郎に仲間意識のようなものを持ってくれた証しでありましょうか。

 万太郎が、通いとは云うものの内弟子としての初回の稽古で久しぶりに疲労した太腿をさすっていると、良平が昼食の支度が出来たから食堂の方へ来いと呼びに来るのでありました。万太郎は良平の後について食堂に向かうのでありました。
 二人は一旦道場の方に回る事なく、そちらとは反対側に廊下を進むのでありました。道場が北向きで母屋が南向きに背中あわせになっていて、その外周をぐるりと縁側兼廊下が廻っていると云った家の造りのようであります。
 道場に来て最初に是路総士に挨拶をした部屋の障子戸の横に開き戸があって、その開けっ放しの入り口から良平が台所兼食堂に入るのでありました。
「押忍。新入りを呼んで参りました」
 良平の後に万太郎が遠慮気味に台所兼食堂に入ると、そこは六畳よりやや広いくらいの、普通の民家によくあるようなダイニングでありました。部屋の真ん中に古そうな四人がけの食卓テーブルがあって、そこには三人分の昼食の皿が用意してあるのでありました。
 台所兼食堂と是路総士の座っている居間は隣りあっていて、四枚引き戸で仕切られているのでありました。その引き戸は開け放たれていて、居間の方に是路総士が床の間を背に座っていて、その和テーブルの上にも一人分の昼食の皿が乗っているのでありました。
「押忍」
 万太郎はそう挨拶して和室に居る是路総士にお辞儀をするために、引き戸脇の板張りに正坐しようとするのでありました。
「食事の時は正坐は必要ないよ」
(続)
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