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お前の番だ! 81 [お前の番だ! 3 創作]

 この後の、相円転返し、とは逆方向に足を運ぶ、逆円転返し、と云う組形では万太郎は、これも興堂範士の指示に依るようで、先程道場へ向かう時に廊下で声をかけられた板場教士と相手をさせられるのでありました。板場教士は威治教士と同格の次席教士と云った地位で、この人の剣も矢張り威治教士に比べれば実直なものではありましたが、花司馬筆頭教士よりは剣気に何となく陰鬱があるように感じられるのでありました。
 この間興堂範士は是路総士と同様、門下生の間を歩いてあれこれと指導に専念しているのでありました。考えてみれば一本目の組型では指導者に、さしでみっちり稽古をつけて貰ったようもので、万太郎にとっては大いに有難い稽古となったのでありました。
「はい、では次の稽古に移りましょう」
 組形を五種類稽古した後で是路総士が云うのでありました。「残りの組形は次回に回すとして、今度は今の組形を準組形稽古としてやりましょう」
 この準組形稽古とは組形稽古の内ではありますが、打太刀が仕太刀の変化を読んだらその動く方に斬線を変えても構わないと云う、試合形式の乱稽古に少し近づいた稽古法であります。とは云ってもあくまで、一定の約束の下に行うものではありますが。
 これも万太郎は最初に興堂範士、次に威治教士、そのまた次に花司馬筆頭教士と板場教士と組むのでありました。当然興堂範士の指示に依るものと推察されるのでありました。
 興堂範士の打太刀は矢張り素早さを威力としている太刀筋で、少しでももたついていると逆に頭頂部への打ちこみを食らうのであります。気が抜けないと云う点で、仕太刀の気持ちの稽古に大いに資するものでありました。
 こちらが打太刀を取る時も、ほんの些細な万太郎の動きを感知しただけで興堂範士は、相手に悟られないような横への変化を以って対応すると云うこの組形の本来の狙い以上に、余人の真似できない素早い斬撃を以って切りこんでくると云う感じであります。集中力をフル動員しなければ、打太刀の役割も十分にこなせないと云った有り様であります。
 威治教士に関しては、仕太刀を取る場合も打太刀の相手をする場合も、こちらも一定の変化を容認されているのでありますから、肝を据えて落ち着いて対すれば満更万太郎の叶わない相手ではないようにも思えるのでありました。威治教士の変化はどちらかと云うと相手への対処としと云うよりは、始動時にフェイントをかけて相手を幻惑しようとか云う魂胆に依っていて、それに威力ある斬線をこの稽古に依って創ろうとする真摯さの感じられない、云ってみれば戯れあいの感覚で剣術の稽古をしているところがあるので、そんなものは気迫と正しい道理に依れば恐れるまでもなかろうと万太郎は思うのでありました。
 剣技に於いては興堂範士を除いて多分、その内弟子たる威治教士も板場教士も花司馬筆頭教士も、総本部道場のあゆみには及ばないであろうと万太郎は思うのでありました。勿論今のところ万太郎もあゆみに簡単にあしらわれているのでありましたが。
「はいでは、今日はこの辺で」
 是路総士が稽古終了の声を発するのでありました。稽古中の門下生はその声で剣を左手に納め、下座に整列正坐するのでありました。
「神前に、礼!」
(続)
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