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お前の番だ! 75 [お前の番だ! 3 創作]

 まあひょっとしたら多少は是路総士の間接的な教誨が効いたのか、効きはしなかったのか、威治教士はこの後は万太郎を玩弄するような所作は慎むのでありました。しかし打太刀として直進しながら真っ直ぐ相手の頭頂部にふり下ろすべき斬線を、万太郎が右に、組形稽古でありますから予め動く方向が判っているのを良い事に、微妙に変化させて打ちこんでくるのは万太郎の組形稽古に対する真摯さを障害する仕業と云うべきでありましょう。
「はい、止め」
 是路総士の声が道場に響くのでありました。万太郎と興堂派の門下生達はその声に反応して急ぎ下座に下がって横一列に正坐するのでありました。
「良いですかな、今やっているのは組形稽古なのですから、相手の不意を突くようなあしらいでまごつかせてやろうとか云った妙な了見で、木刀をふらないように願いますよ。仕太刀と打太刀が相手を思い遣りながら、協力しあって励むのが組形稽古なのですからな」
 この是路総士の言葉は、先程の万太郎と威治教士の稽古の様子を念頭に置いての戒めである事は明白であろうと万太郎は思うのでありました。万太郎は、先に威治教士が仕かけてきたとは云うものの、迂闊にそれに乗ったような結果として、相手の出方への対応をあれこれ検討して仕舞った自分の心根を恥じるのでありました。
 是路総士がちらと万太郎の方を向くのでありました。万太郎は即座に立って是路総士の前に出るのでありました。
「では今度は、相円転返し、の組形をやりましょう」
 是路総士は正眼の構えで万太郎の八相と対峙するのでありました。「こちらが相手の喉に剣先をつけている限りは、八相に構えた相手は手出しが出来ません」
 確かに是路総士の木刀の切っ先から迸る迫力が、万太郎の動きを奪っているのでありました。若し万太郎が微動すれば空かさず、是路総士の木刀の切っ先が最短距離で喉笛に到達するに違いないでありましょう。
「だからこれをこうして、・・・」
 是路総士はそう云いながら、木刀の切っ先を万太郎の喉元から少しばかり左方に動かすのでありました。「相手の左側に外して相手に打ちこむ隙を与えてやると、・・・」
 万太郎は自分の真ん前に迫っていた切っ先が僅かに逸れたので、空かさず上段に木刀をふり被ると是路総士の正面に斬撃を加えるのでありました。すると是路総士は先の、相打ち返し、の時と同じように万太郎の右に動き、その木刀は円く万太郎の斬線に同調しながら往なすように動いて、万太郎の頭頂部に素早く切り返されるのでありました。
 結果、万太郎の木刀は是路総士の右肩の一寸横に逸れた位置に帰着し、是路総士の木刀は物打ちで万太郎の頭頂部を捉えているのであります。これが常勝流剣術の組形三本目、相円転返し、と云う技でありました。
「自分の剣で相手の斬撃を受けないようにするのが肝心です。ギリギリのところで剣の接触を避けて丸く切り返すのですぞ。剣が触ると相手の切り下してくる力に影響されますから、こちらの丸い剣の軌跡が乱れる場合がある。ま、そうなっても本当は乱れてはいかんのですが、相手の剣に触らない方がこちらは滑らかに剣を返し打てますからな」
(続)
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