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お前の番だ! 63 [お前の番だ! 3 創作]

「今後とも、よろしくお願いいたします」
 鳥枝範士は今まで聞いた事のないような、返って万太郎の方がまごつくような丁重な物腰で云うのでありました。是路総士にしても鳥枝範士にしても、新入門の内弟子風情に対するこの丁重さはどうした事でありましょうか。
 万太郎は常勝流と云う流派の秘められた薫香を嗅いだような気になるのでありました。当流の長く厳しい、そして正しい修行を積んだ人であるからこそ、体得された武道的厳格さが物事の折り目で見事な礼容として現れるのでありましょう。
 万太郎は一種の感動に浸りながら、更衣のために納戸兼内弟子控えの間に行くのでありましたが、そこには良平がまるで万太郎が現れるのを待っていたかのように、部屋の中央に座しているのでありました。
「おう、内弟子入門の手続きと挨拶は済んだのかい?」
「はい、じゃなかった、押忍」
 万太郎の慣れぬ返答言葉に良平はニヤと笑って見せるのでありました。
「そんじゃあ俺は、鳥枝先生の茶を替えに行ってくるか」
 良平はそう云いながら億劫そうに立ち上がるのでありました。「ところでお前さん、何時から道場に引っ越して来るんだい?」
「一応三月までは通いの内弟子と云う事で、稽古には明日から参ります」
「ふうん、三月まで通いの内弟子、ねえ。そんなまどろっこしい事しないで、さっさとここに腰を据えれば良いじゃないか。内弟子仕事の色々も教えんといかんからな」
「ええまあそうかも知れませんが、一応未だ学校の方もありますし。・・・」
「まあいいや」
 良平は万太郎の脇を抜けて出入口の戸に手をかけるのでありました。「お前さんが来れば少しは俺の仕事も楽になるだろうから、楽しみにしているぜ」
「はい、じゃなかった、押忍。よろしくお願いします」
「よっしゃ。承りましたときたもんだ」
 良平は戯れ言のような妙な応諾の返事をして見せるのでありました。
「着替えが済んだら、僕はその儘、総士先生や鳥枝先生にお暇の挨拶をしないで帰って仕舞っても良いんでしょうか?」
「別に構わんよ。お二方共、今日はもうお前さんに用事は何もないだろうからな。俺も、取り敢えず用事はない」
「押忍。判りました」
 万太郎は良平にお辞儀をして見せるのでありました。
「明日は何時に来るんだ?」
「朝稽古に間にあうように来ます」
「つまり十時頃と云う事か? 出来たらそんな無精をしていないで、八時頃来て貰うと好都合だな。通いとは云え、もう内弟子なんだから色々覚えて貰う仕事もある」
「判りました。それでは八時に参ります」
(続)
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