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お前の番だ! 59 [お前の番だ! 2 創作]

 この間に万太郎は見所に上ろうとしている是路総士の傍に趨歩して、総士愛用の木刀を恭しい仕草で手渡すのでありました。是路総士は木刀を受け取ると興堂範士と伴に見所に座って、自分の右横に木刀の刃側を自分に向けて置くのでありました。
 万太郎は自分の木刀を左手に持って走って後列の最端に立つのでありました。万太郎の横には板場がいるのでありました。
「素ぶり鍛錬を始めよ!」
 見所の是路総士の横に座った興堂範士が命じるのでありました。するとそれに呼応して、前列中央に立っている、板場と伴に控えの間まで来ていたもう一人の門弟で名前を、花司馬渉、と云う興堂派の筆頭教士が声を発するのでありました。
「正眼に構え!」
 万太郎と興堂派の門下生一同は「オウ!」と応じて、一斉に左手に引っ提げていた木刀を掌から引き抜いて正眼に構えるのでありました。
「上段からの正面斬り!」
 前列中央の花司馬がそう指示の声を上げ一拍を開けて「一!」と鋭い声で号令をかけるのでありました。すると門下生全員が木刀を上段にふり被ってすぐさま「エイ!」の気合の声と伴に、右前足を一歩継足で前に力強く踏み出しながらそれを真っ向に斬り下ろし、その後素早く一歩後ろ足から継足で元の位置に戻るって正眼に構えるのでありました。
 花司馬がテンポ良く「二、三、四、・・・」と号令し、門下生達はそれに同調して声をあわせて気合を発しながら、木刀に膂力を乗せて斬り下すのでありましたが、花司馬は都合五十本、正面斬りの号令をかけると「止め!」と指示を出すのでありました。この五十本で早々に息があがって剣先を揺らしている者が出るのでありました。
「次、右八相からの袈裟斬り!」
 花司馬が次の指示の声を上げると、門下生達は一斉に左脚を歩み足に前に出し、右肩に木刀を四十五度程斜めに傾けて担ぐような構えを取るのでありました。この、八相からの袈裟斬り、もまた同じく五十本繰り返されるのでありました。
 こうして、脇構えからの正面突き、正眼からの右返し斬り、同じく左返し斬り、右下段からの斬り上げ、左下段からの斬り上げ等の素ぶり十種が終わる頃には、大方の門下生が息を弾ませているのでありました。常勝流ではこの最初に行う素ぶり鍛錬で膂力をほぼ遣い果たすべしとされていて、それはこの鍛錬中に体に滞った無駄な力をふるい落して仕舞って、それから後に必要最小限の力を以って剣技を創るべしとされているからであります。
 素ぶり鍛錬が終わると、門下生達は木刀を左手に収めて下座に下がって正坐するのでありました。下座の荒い息遣いの気配が静まってから、是路総士が徐に右手で取った木刀を左手に持ち替えて見所を下りるのでありました。
「今日参集されている方々は道分道場の内弟子か準内弟子のエリートの方々ですから、この儘休息なしで組形の稽古に移りますぞ」
 是路総士が愛嬌たっぷりの笑いを浮かべながら宣するのでありました。それから万太郎の方に視線を向けるのは、前に出よと云う彼に対する指示なのでありました。
(続)
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