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お前の番だ! 33 [お前の番だ! 2 創作]

「万太郎、棚の中にこの前ウチの実家から送ってきた栗鹿子があるから食え」
 内弟子部屋に引き上げると布団を敷いてジャージ姿に着替えた良平が掛布団の上に寝転がって、開いている週刊プレイボーイのヌードグラビアから目を離さないで云うのでありました。この同い年の良平はなかなか気の良い男で、自分がほんの二か月ではありますが兄弟子であるにも関わらず、万太郎の布団までちゃんと敷いてくれているのでありました。
「へえ、栗鹿子ですか」
 万太郎より一応二か月早い入門で、生まれ月も六か月早い良平を彼は兄弟子と立てて敬語で喋るのであります。良平は信州の小布施の出身なのでありました。
 万太郎は棚から箱に入った栗鹿子の和紙に収まった一包みを取って、自分の布団の上に胡坐をかいて座るのでありました。
「頂きます」
 万太郎は栗鹿子を目の高さに押し戴くように上げて云うのでありました。その言葉に良平は目をヌードグラビアから放さないで頷いて見せるのでありました。
「明日の鳥枝建設の出稽古の方は万太郎が当番だよなあ?」
 良平が頁を繰りながら云うのでありました。
「ええ僕です」
 鳥枝建設では週一回水曜日の夜に社員の愛好家を対象に、地下の社員食堂で常勝流の稽古が行われているのでありました。食堂のテーブルと椅子を隅に片づけてスペースを作り、そこに青畳を三十二畳、真四角に敷いて十人程の人数で稽古をするのであります。
 勿論鳥枝範士が指導に当たり、万太郎と良平は範士の命により週替わりでその助手として出かけて行くのでありました。稽古に来る社員の方が内弟子の両名より年季は随分長いのでありますから、この二人は参加不要かと思われるのでありましたが、鳥枝範士が遠慮なく手加減なく技をかけられると云う点に於いて多分必要なのでありましょう。
 この鳥枝建設での稽古の後には、大概皆で近くの居酒屋で飲み会が行われるのでありました。そこでは内弟子の両名も鳥枝範士の許しが出て、後片づけ不要で大いに酒を呑み、且つ美味い料理をしこたま食う事が出来ると云う楽しみがあるのでありました。
「俺は総士先生のお伴で神保町の剣稽古に行かなければならんのだが、・・・」
 良平はそう云ってようやくヌードグラビアから目を離して、寝そべって腕枕をした儘万太郎を見るのでありました。神保町の剣稽古、と云うのは先に話した是路総士の弟弟子にあたる道分興堂範士の興堂派本部道場での出張剣稽古であります。
 こちらは月に一回第一水曜日の夜に、道分範士の依頼により是路総士が剣の稽古に出向いているのでありましたが、内弟子両名の内のどちらかがこちらも付き人として同行する事になっているのでありました。補足ながらこの水曜日夜の常勝流本部での稽古は、もう一人の本部付範士である寄敷保佐彦範士とあゆみが担当する事になっているのであります。
「神保町の稽古を俺と代わってくれないか?」
 良平が真顔になって上体を起こすのでありました。
「それは別に構いませんけど」
(続)
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